Metaのヤン・ルカン氏が「AI終末論」に異を唱える理由
Fast Companyの取材でMetaのチーフAIサイエンティストであるヤン・ルカン氏が「AI脅威論」への反論を語った。Llama 2のようにモデルをオープンソース化し広く開発を促すことこそが、少数のエンジニアによる技術独占を防ぐ唯一の手段だと主張している。

ChatGPT が登場して世界中が騒然としていた1月下旬、Meta のチーフ AI サイエンティストであるヤン・ルカン(Yann LeCun)氏は、示唆に富むツイートを投稿しました。
既存の大手企業は失うものが多すぎるため、欠陥のあるデモを安易に公開しないだけであり、Google や Meta が ChatGPT のようなものを出さなかったのは「技術的に作れないからではなく、あえて出さなかったからだ」という指摘でした。
当時、巨大テック企業は OpenAI に匹敵する研究成果を持ちながら、リスクを恐れて慎重な姿勢を崩していませんでした。しかしわずか1年も経たないうちに、状況は一変しました。
わずか3日で公開停止した悪夢からの大転換
大手企業が慎重だったのには、それなりの理由がありました。
実際、ChatGPT が公開される2週間足らず前、Meta は科学向けチャットボット「Galactica」を公開したものの、デタラメな回答を連発して批判を浴び、わずか3日でサービス停止に追い込まれていたのです。
ところがその後、Meta は競合の誰よりも大胆な賭けに出ました。大規模言語モデル「Llama 2」の公開です。
有料の API や購読モデルをとる OpenAI の GPT-4 とは異なり、Llama 2 は商用および研究用途として無償開放されました。学習データが非公開である点から「真のオープンソースではない」という批判はあるものの、開発者への影響は甚大でした。
「一握りの技術者による支配」を防ぐ
1990年代からディープラーニングの研究を切り拓き、2013年に社内 AI 研究所 FAIR を立ち上げたルカン氏にとって、この方針転換は大歓迎すべきものでした。
同氏が描く未来では、人々は Google で検索したり Facebook を巡回したりせず、仮想アシスタントをデジタル世界の主要な窓口として使うようになります。
社会全体が AI に依存する未来において、基盤技術が一握りのシリコンバレーの技術者だけに独占される事態は避けなければならない、というのが彼の主張です。だからこそ、システムをオープンで透明なものにしておく必要があります。
なぜ重要か
開発者や一般企業にとって、Llama 2 の存在はゲームチェンジャーです。OpenAI の API に従量課金し、機密データを外部サーバーに送るリスクを冒さなくても、高性能なモデルを手元のインフラで動かして自由にカスタマイズできるようになりました。
業界全体から見れば、Meta の戦略は非常にしたたかです。自社の主力事業がモデルの販売ではないことを逆手に取り、基盤モデルを無償化することで、モデル利用料で稼ぎたい OpenAI などの収益基盤に揺さぶりをかけています。
ただし、手放しで賞賛できるわけでもありません。学習データが隠されている以上、モデルがどんなバイアスを抱えているかを外部から検証しきれない懸念は残ります。また、自由に使える強力なモデルを広く配布することが、将来的な悪用リスクをどうコントロールするのかという重い問いも突きつけられています。
情報源 (1)
- fastcompany.com(新しいタブで開きます)原文fastcompany.com