本文へスキップ
IFAI

研究

MITとハーバード、AIで耐性菌を倒す新系統の抗生物質を発見

公開 拡散指数 36

MITとハーバード大学ブロード研究所のチームが、AIを活用してMRSAなどの薬剤耐性菌に有効な新系統の抗生物質を発見した。3万9000種以上の化合物データから学習したAIが1200万種をスクリーニングし、マウス実験で効果を実証。約60年ぶりとなる新薬系統の発見につながった。

MITとハーバード、AIで耐性菌を倒す新系統の抗生物質を発見
画像:newscientist.com

耐性菌による感染症は、現代医学が直面している最も深刻な脅威の一つです。2019年には世界で120万人以上が抗生物質耐性によって命を落としており、この犠牲者は今後数十年でさらに増えると予想されています。

こうしたなか、AIが60年ぶりとも言える大きな突破口を切り開きました。

米MITとハーバード大学が共同運営するブロード研究所の研究チームは、AIを活用して薬剤耐性菌を退治できるまったく新しい系統の抗生物質を発見しました。マウス実験において、院内感染の代表格であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や、難敵であるバンコマイシン耐性腸球菌の両方に有効であることが確認されています。

1200万の候補から毒性のない「当たり」を特定

これまでの創薬AIは、候補分子を見つけることはできても、なぜそれが効くのかという理由はブラックボックスになりがちでした。

ブロード研究所のFelix Wong氏らは、化合物の有効性だけでなく、化学構造の観点から「なぜ効くのか」を説明できるモデルの構築を目指しました。

まず研究チームは、黄色ブドウ球菌と3種類の人体細胞(肝臓、骨格筋、肺)に対して3万9000種類以上の化合物をテストしました。この実験結果を教師データとしてAIに学習させ、原子の配置や結合パターンから抗菌活性と人体への毒性を同時に予測できるようにしました。

学習を終えたAIは、コンピューター上で1200万種もの化合物をシミュレーションし、薬としての理想的な性質を持つ3646種を絞り込みました。

さらに計算を進めて薬効の鍵となる部分構造を解明した結果、チームは新系統の抗生物質を特定。人体細胞に対して毒性を持たず、MRSAとバンコマイシン耐性腸球菌を死滅させられる2つの化合物を発見することに成功しました。

マウスを使った感染実験でも、MRSAによる皮膚や大腿部の感染症を治療できることが実証されています。

共著者のJames Collins氏によると、これら2つの耐性菌に同時に作用する抗生物質の系統は、オキサゾリジノン系やリポペプチド系など過去60年間でわずかしか見つかっておらず、既存薬に対する耐性も高まっていました。今回の発見は、それらを補完する貴重な新系統となります。

なぜ重要か

今回の成果で最も注目すべきは、AIが単なるスクリーニングの高速化にとどまらず、化学構造に基づく「根拠」を人間に提示できるようになった点です。

従来の抗生物質開発は、多額のコストがかかる割に耐性菌の出現によって使用が制限され、製薬会社が次々と撤退する採算の合わない領域でした。しかし、AIが毒性と有効性を最初から切り分け、1200万種の化合物からピンポイントで無毒な新系統を導き出せるなら、開発の失敗リスクと期間を劇的に圧縮できます。

もちろん、マウスでの成功から臨床試験を経て実用化に至るまでにはまだ高いハードルがあります。それでも、手詰まり感のあった耐性菌対策に60年ぶりの新たな武器の候補が加わった意義は極めて大きいです。

さらに研究チームはこの仕組みを応用し、変形性関節症やがんに関連する老化細胞を選択的に除去する新薬の探索も始めています。AI主導の創薬アプローチが、一過性の実験室の成果ではなく、幅広い難病治療の基盤技術になりつつあることを示しています。

情報源 (1)

  1. [1]
    newscientist.com(新しいタブで開きます)原文newscientist.com

毎日のAIピックアップ