MITなど、深層学習で60年ぶりの新規抗生物質を発見 耐性菌MRSAに効果
MITやハーバード大などの研究チームが、解釈性を高めた深層学習モデルを用い、耐性菌MRSAに有効な60年ぶりの新規系統抗生物質を発見した。約1200万種類の化合物から絞り込み、マウス実験で細菌数を10分の1に減らすことに成功。AIのブラックボックスを解消し創薬を加速させる成果だ。
長年にわたり新薬の登場が途絶えていた抗生物質の分野で、人工知能(AI)が歴史的な突破口を開きました。マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学などの研究チームが、深層学習を活用して約60年ぶりとなる新しい系統の抗生物質候補を発見しました。成果は科学誌「Nature」に掲載されています。
標的となったのは、既存の多くの薬剤が効かない耐性菌「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」です。欧州疾病予防管理センター(ECDC)のデータによると、EU域内だけでも年間約15万件のMRSA感染が発生しており、薬剤耐性菌による死者は年間約3万5000人に達しています。
AIのブラックボックスをこじ開ける
これまでの創薬AIは、なぜその分子が効くのか理由がわからない「ブラックボックス」になりがちでした。研究チームを率いた一人であるMITとハーバード大学の博士研究員Felix Wong氏は、ニューラルネットワークの内部で何が起きているのか誰にも分からない状態を変えたかったと振り返っています。
研究チームはモデルの透明性を高めるアプローチを取りました。まず約3万9000種類の化合物を対象にMRSAに対する抗菌活性を実験で測定し、そのデータと化学構造をモデルに学習させました。
さらに重要なのは毒性の評価です。研究グループは別の3種類の深層学習モデルを使い、3種類の人体細胞に対する化合物の毒性を予測させました。菌を強力に殺す一方で、人体へのダメージが極めて少ない分子を絞り込む仕組みを整えたわけです。
1200万の候補から絞り込んだ2つの新薬候補
準備を整えたAIシステムは、市販されている約1200万種類もの化合物を仮想スクリーニングしました。その結果、特定の化学部分構造を持つ5つの系統の有望化合物が浮上しました。
研究チームはその中から約280種類の化合物を実際に調達し、実験室でMRSAに対するテストを実施しました。その過程で、同じ系統に属する極めて有望な2つの候補物質が特定されました。
マウスを用いた皮膚感染モデルと全身感染モデルの実験において、これら2つの化合物は体内のMRSA菌数を10分の1に減少させる効果を示しました。MITのJames Collins教授は、時間とリソースの両面で効率的であり、化学構造の観点からも深い知見をもたらす枠組みだと語っています。
なぜ重要か
抗生物質の新規開発が60年近く停滞する一方で、耐性菌の脅威は急速に高まっています。今回の成果の価値は、単にMRSAに効く分子を見つけたことにとどまらず、創薬AIの課題だった説明可能性を向上させ、どの化学構造が抗菌性をもたらすかを明示した点にあります。
私たちが注目したいのは、人体細胞に対する毒性予測を初期スクリーニングに直接組み込んだアプローチの巧みさです。初期段階で有望に見えた候補物質が、後から毒性問題で開発中止になるケースは製薬業界の大きな損失源でした。ここを計算段階で排除できるメリットは極めて大きいと言えます。
ただし、一般の患者が今すぐ恩恵を受けられるわけではありません。マウス実験で菌を大幅に減らしたとはいえ、人体での安全性や代謝特性を検証するための臨床試験には通常何年もかかります。実用化への道のりはまだ始まったばかりですが、停滞していた抗生物質開発に確かな光を当てたことは間違いありません。
情報源 (1)
- euronews.com(新しいタブで開きます)原文euronews.com