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トランプ米大統領、AI安全大統領令の署名を延期:対中競争力への影響を懸念

公開 拡散指数 43

トランプ米大統領はフロンティアAIモデルを対象とした安全保障大統領令の署名を直前で延期した。草案にはモデル公開前に政府が最長90日間の事前検証を行える枠組みが含まれていたが、トランプ氏は米AI産業の対中競争力を損なう恐れがあると難色を示した。

ホワイトハウスでの公式署名まで残り数時間という土壇場で、大統領令に急ブレーキがかかりました。

トランプ米大統領はオーバルオフィスで記者団に対し、フロンティアAIの安全保障を対象とした大統領令の署名を延期したと明かしました。理由は率直で、「気に入らない条項が一部あった」とし、事前審査の義務付けが中国などの競合国に対する米AI産業の優位性を損ないかねないと懸念を示しました。

直前まで出回っていた草案の柱は、最先端モデルに対する事前検証枠組みの構築です。AI企業に対し、一般公開前の14日から90日間にわたって政府へモデルや関連データを提供させ、安全保障上の検証を行う内容でした。さらに金融や医療といった重要インフラのサイバー防衛担当者にも、公開前のアクセス権を与える計画が含まれていました。

90日間の事前検証とNSAの介入

草案に盛り込まれた省庁の権限はかなり踏み込んだものでした。

国家安全保障局(NSA)が機密区分のセキュリティ評価を主導し、財務省はAI企業と重要インフラ防衛者とのデータ共有体制を整備。さらにCISAやNIST、国家サイバー長官室(ONCD)が審査対象となるフロンティアモデルの線引きを担う予定でした。

草案を確認した元政府高官によると、これまでのモデル検証はAI企業側が主導し、政府関係者の手を取って見せたい部分だけを説明する形式にとどまっていました。しかし過去5年で政府側の技術理解が進んだ結果、「ツールをそのまま引き渡してもらい、政府独自で検証できる準備が整った」と認識が一変していたといいます。

政府がここまで介入を急いだ背景には、現実の脅威があります。直近でもAnthropicのMythosやOpenAIのGPT-5.5といった最先端モデルにおいて、看過できないサイバーセキュリティ上のリスクが指摘されていました。

安全保障リスクと「規制撤廃」のジレンマ

現場の危機感は確実に高まっています。マイクロソフトのAIレッドチームを立ち上げたラム・シャンカール・シバ・クマール氏によると、2019年当時は数名のセキュリティ担当者だけだったチームが、今では言語学者や心理学者、生物兵器の専門家まで抱える大所帯に変貌しました。AIはすでにドローン戦争や国家主導のサイバー攻撃に組み込まれており、エンジニアの設計判断が現実の生死に直結する時代に入っています。

しかし、トランプ政権自身が就任当初に掲げた「安全規制の全廃」という看板が、自らの首を絞める結果となりました。産業育成を優先してガードレールを否定してきた手前、国家安全保障を守るために「事前テストと枠組みの義務化」を導入しようとすると、自らの主張と真っ向から衝突してしまいます。

直前での延期劇は、規制緩和という政治的スローガンと、前沿モデルがもたらす現実の脅威との間でホワイトハウスが板挟みになっている実態を浮き彫りにしました。

なぜ重要か

モデルの進化スピードが極めて速いAI業界において、90日という待機期間は製品サイクルが丸ごと一世代進んでしまうほどの長さです。米国のトップ研究所が数カ月間テスト室に足止めされている間に、海外勢やオープンソースが毎週のように更新を重ねれば、競争上の打撃になるという懸念自体は理解できます。

しかし、だからといって安全保障の検証を棚上げにする判断は極めて危ういと私たちは考えます。MythosやGPT-5.5が示したように、高度な自律能力を備えたモデルは強力なサイバー兵器にも転用され得ます。対中競争力という名目のもとで最低限の検査すら「足かせ」と切り捨てるのは、スピードのために社会インフラを脆弱性にさらす賭けに等しいと言えます。

競争速度を落とさずにどう制御不能なリスクを抑え込むのか、政権は根本的な答えを出せていません。開発者やエンタープライズにとって規制の導入は一時的に先送りされた形ですが、このジレンマが解消されたわけではない点には注意が必要です。

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