ニューヨーク・タイムズが規約改定:AI学習目的の無断スクレイピングを禁止
ニューヨーク・タイムズが利用規約を改定し、記事テキストや画像などのデータを機械学習や AI の学習に無断利用することを禁止したと報じられた。許可のないクローラーには罰則が科される可能性があり、メディア各社による無断データ収集への対抗措置が本格化している。

過去 1 年間、大手テック企業はウェブ上のあらゆるコンテンツを自社の AI モデルの学習データとして自由に吸い上げてきました。しかし、メディアの最高峰に位置する大手パブリッシャーが、ついにその流れに明確なストップをかけました。
8 月 10 日の報道によると、ニューヨーク・タイムズは 8 月 3 日付で利用規約を改定し、同社のコンテンツを機械学習や AI システムの開発・学習に利用することを明示的に禁止しました。
記事テキストから「デザインの質感」まで禁止
今回の改定は、抜け穴を徹底的に塞ぐ内容になっています。
禁止対象は記事本文や写真、画像、動画、音声クリップにとどまりません。サイトのメタデータや、全体のデザインの雰囲気を示す「ルック&フィール」(look and feel)に至るまで、同社の許可なくソフトウェア開発や AI 学習に使用することが禁じられました。
規約では、書面による許可なしにウェブクローラーなどの自動化ツールでデータを収集した場合、罰金や法的処罰の対象になり得ると警告しています。ただし、The Verge の指摘によると、クローラーのアクセスを技術的に遮断する robots.txt は即座に変更されておらず、まずは法的な防壁を優先して築いた格好です。
背景には、テック大手の急速なデータ囲い込みがあります。Google は最近プライバシーポリシーを改定し、ウェブ上の公開データを Bard などの AI 学習に利用する方針を明記しました。一方で OpenAI は GPTBot の拒否設定を公開し、Microsoft も自社サービス規約で AI による競合学習を禁止するなど、ルール作りの主導権争いが激化しています。
AP 通信や欧州出版社協議会などの報道機関は、学習データの透明性と権利者の同意を求める共同公開書簡を発表しました。しかし Semafor によると、ニューヨーク・タイムズはこの共同交渉グループから離脱したと報じられています。同社は 2 月に Google と 3 年間で 1 億ドル規模の提携を結んでおり、業界の足並みを揃えるよりも、個別の大型ディールを狙う戦略に舵を切ったと見られます。
なぜ重要か
この動きは、メディアとテック企業の力関係が転換期に入ったことを示しています。
AI 開発者やスタートアップにとって、ウェブ上の高品質なテキストを無償でスクレイピングできる「フリーランチ」の時代は完全に終わりを迎えつつあります。今後は信頼性の高いコーパスを手に入れるために、莫大なライセンス料を支払うか、品質の劣るデータで妥協するかの二者択一を迫られます。
一方で、ニューヨーク・タイムズが共同戦線を離脱して単独交渉に動いている点は極めて現実的です。ブランド力と膨大なアーカイブを持つトップメディアは、他社と組むよりも OpenAI や Microsoft と直接交渉した方がはるかに高額な対価を引き出せると判断したのでしょう。
利用規約の変更だけで無断スクレイピングを完全に防ぐことは困難ですが、将来的な訴訟やライセンス交渉における強力な法的武器になることは間違いありません。今後、他の大手メディアも追随し、AI データの有料化が一気に進むと考えられます。
情報源 (2)
- adweek.com(新しいタブで開きます)原文adweek.com
- theverge.com(新しいタブで開きます)報道theverge.com