トロント大学、機械学習で持効性注射剤の製剤設計を迅速化
トロント大学の研究チームが、機械学習を用いて持効性注射剤の徐放特性を予測・設計する手法を英科学誌に発表した。卵巣がん治療薬を用いた検証では、従来何回も試行錯誤が必要だった目標の放出プロファイルを一度で達成。研究データとコードはZenodoで公開されている。

持効性注射剤の製剤設計を機械学習で効率化するオープンソースの取り組みだ。トロント大学の研究チームが開発したもので、徐放性プロファイルの予測モデルと訓練データセットを公開し、従来の試行錯誤による開発期間を大幅に短縮できるようにした。
何ができるのか
高分子材料を用いた持効性注射剤は、体内で長期間にわたって有効成分を徐放させることで、慢性疾患患者の服薬負担を大幅に減らす。
しかし、目的の期間にわたって適切な放出速度を維持する処方を見つけ出すには、通常、膨大な数の候補サンプルを作成し、測定を繰り返す必要がある。
このツールを使えば、データに基づいて放出プロファイルを事前予測できる。研究チームが卵巣がん治療薬を用いて検証したところ、モデルが提示した設計基準に従うことで、通常なら複数回繰り返す調整実験を一発でクリアし、狙い通りの徐放プロファイルを達成した。
仕組みと実装
チームは過去に公開された高分子マイクロ粒子に関する研究からデータを収集し、製剤設計専用のデータセットを構築した。
その上で、重回帰分析、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、LightGBM など、計 11 種類の機械学習モデルを比較検証した。
その結果、決定木ベースのモデル、特に LightGBM が最も高い予測精度を示した。
さらにチームは解析手法を用いて LightGBM の学習結果を解釈し、新規製剤の設計指針を抽出。それに基づいて卵巣がん薬の処方を決定し、実験による検証に成功した。
使用されたコードとデータセットは、オープンソース基盤の Zenodo で誰でもダウンロード可能となっている。
なぜ重要か
ドラッグデリバリーや製剤研究に携わる研究者にとって、すぐに試せる有用なベースラインとなる。一からパイプラインを組む手間を省き、手元のデータで放出予測を検証できる。
われわれが巧みだと感じるのは、闇雲に深層学習に走らず、LightGBM のような解釈しやすい決定木モデルを採用した点だ。データ数が限られる製剤化学の現場では、巨大なモデルよりもこうした手法のほうが安定して機能しやすい。
課題は創薬・製剤分野におけるオープンデータの少なさだ。研究チームも指摘している通り、多くの実験データが閉じた環境に眠っている。業界全体で共有データベースが整備されない限り、アルゴリズムが優れていても、その真価を完全に発揮するのは難しいだろう。
情報源 (1)
- phys.org(新しいタブで開きます)原文phys.org