バイオ製薬 Genmab が全社で ChatGPT 導入:2,000 名超に配布、週 3.5 時間を削減
バイオ製薬大手 Genmab が全社規模で ChatGPT Enterprise を展開する「AI Everywhere」を開始した。2,000 以上のライセンスを配布し、臨床試験文書の作成や文献要約などに 100 以上のカスタム GPT を活用。従業員アンケートでは週平均 3.5 時間の業務削減が報告されている。

多くの企業で AI ツールの導入が形骸化するなか、抗体医薬大手の Genmab はきわめて実践的なアプローチで全社展開を進めています。
同社は 1,000 名規模で ChatGPT Enterprise を試験運用したのち、全社導入計画「AI Everywhere」を始動。配布ライセンスを一気に 2,000 名以上に拡大し、ほぼ全従業員が利用できる環境を整えました。
ツールの使い道に悩む社員に向けて、会社側が出した指示は実にシンプルでした。「自分の職務記述書(JD)を ChatGPT に貼り付けて、『私の仕事をどう支援できるか』と尋ねてみよう」というものです。
100 以上のカスタム GPT が稼働、臨床試験文書も作成
この取り組みは現場の業務にすぐ定着しました。現在、社内では文献の要約からデータ分析まで、100 種類以上のカスタム GPT が構築されています。
社内調査によると、従業員 1 人あたり週平均 3.5 時間の業務時間が削減され、1 人あたりの週間対話数は平均 120 回に達しました。急成長によって規模が 3 倍に拡大した同社にとって、業務効率化の大きな起爆剤となっています。
特に注目されるのは、高度な専門性が求められる臨床領域への適用です。同社は GPT-4o を活用し、臨床試験総括報告書(CSR)や患者安全性に関する叙述、治験届(IND)のドラフト作成を進めています。臨床データと現場のフィードバックを直接連携させ、指示を受けながら人間のように草案を自己修正させています。
さらに GPT-4o の画像認識能力を使い、図表や数値、テキストが混在する学術資料の引用確認を効率化。従来は多大な時間と費用がかかっていた検証プロセスを大幅に圧縮しました。
また独自開発の「AI Translator GPT」では、翻訳者、編集者、生物学専門エージェントという複数の役割をモデルに担わせています。訳文の抜け漏れを検証する逆翻訳プロセスや、英中翻訳の精度を高めるために日本語を経由させる独自の手法を取り入れ、数週間かかっていた翻訳期間を数時間から数分に短縮しました。
クラウドを介さず OpenAI と直接提携
インフラ面において、Genmab は一般的なクラウド経由の導入ではなく、OpenAI との直接提携を選択しました。
OpenAI の研究・展開チームと直接対話できる関係を築くことで、最先端の知見をすばやく自社ソリューションに取り入れる狙いがあります。製薬業界で不可欠となるセキュリティやデータプライバシーに関しても事前評価を実施し、定期的な監査を行っています。
なぜ重要か
製薬業界は規制が厳しく、誤謬が許されない分野の筆頭です。これまで生成 AI の用途といえば社内 FAQ や一般的な資料作成にとどまる例が大半でしたが、Genmab の事例は、適切なワークフローと検証手順を組めば、臨床文書のような極めて専門性の高い中核業務にも LLM が踏み込めることを示しています。
他社にとって最も参考になるのは、現場への浸透手順です。「自分の JD を読み込ませる」というシンプルな最初の一歩が利用のハードルを下げ、100 を超えるカスタム GPT を用意することでプロンプト作成の負担を解消しました。
一方で、OpenAI のエコシステムに自社の中核ワークフローを深く依存させることには、将来的なベンダーロックインのリスクが伴います。それでも、週 3.5 時間という明確なリターンが全社規模で出ている以上、この果敢な投資は十分に理にかなった一手と言えます。
情報源 (1)
- openai.com(新しいタブで開きます)原文openai.com