MSの生成AI版『Quake II』批判にカーマック氏が反論、「強力な道具こそ進歩の本質」
マイクロソフトが発表したリアルタイム生成AIゲームエンジン「WHAMM」による『Quake II』のデモに対し、雇用を奪うとの批判が噴出。これを受け、『Quake』生みの親のジョン・カーマック氏が反論し、AIはかつて手作業の機械語を淘汰した高級言語のような正当な開発ツールだと擁護した。

往年の名作 3D シューティングを、従来のグラフィックエンジンではなく AI の「世界モデル」がリアルタイムに毎フレーム予測生成する。そんな技術デモをめぐり、ゲーム業界で激しい議論が巻き起こっています。
マイクロソフトは先週金曜日、生成 AI ゲームエンジン「WHAMM(World and Human Action MaskGIT Model)」を用いたプレイアブルデモを公開しました。従来の描画パイプラインを使わず、AI が「Quake II」の画面をリアルタイムに生成するという実験的プロジェクトです。研究チームは発表ページで、オリジナルのゲーム体験を完全に再現する意図はないとあらかじめ説明していました。
しかし、このデモに対して X 上で「Quake Dad」と名乗るユーザーが反発。「胸糞が悪い」「世界中のあらゆる開発者の仕事を侮辱している」と批判しました。レイオフが相次ぐゲーム業界において、完全生成型のゲームは開発者の雇用を奪い、再就職をさらに困難にさせると懸念を表明した形です。
伝説の開発者とゲーム界の大物が擁護
この批判に対し、月曜日に真っ向から反論したのが「Quake」シリーズの生みの親のひとりであり、id Software の共同創業者でもあるジョン・カーマック氏です。同氏はこのデモを「印象的な研究成果」と評価し、擁護しました。
カーマック氏は長文の投稿で、批判者はこの技術デモの本質を取り違えていると指摘。AI ツールがプログラマーやアーティスト、デザイナーのスキルを軽視しているという懸念に対し、コンピューターの進化の歴史を引き合いに出しました。
自身が初期のゲームを作っていた頃は、手作業でマシン語をアセンブルし、方眼紙に描いた文字を 16 進数に変換していたとカーマック氏は振り返ります。そして、ソフトウェアの進歩によってそうした作業は「戦車の車輪の整備」と同じくらい無意味なものになったと述べ、より強力なツールを作ることこそがコンピューターのあらゆる進歩の核心であると語りました。
これに対し、Epic Games のティム・スウィーニー CEO も同調する姿勢を見せました。スウィーニー氏は、高水準言語やペイントソフト、ビジュアルスクリプティングが過去の時代に定着したのと同様に、AI も最終的にはあらゆる開発者のツールボックスに収まる強力な道具になるだろうと述べています。
なぜ重要か
今回の議論は、生成 AI が「雇用の破壊者」なのか、それとも「新たな道具」に過ぎないのかという対立を象徴しています。
現場のクリエイターにとって、WHAMM は今すぐ既存のゲームエンジンに取って代わる代物ではありません。物理演算の正確さやゲームロジックの厳密さは担保されておらず、商用タイトルを制作する段階には程遠いのが実情です。したがって、現在持っているゲーム開発スキルが明日使えなくなるわけではありません。
一方で技術的な影響として見逃せないのは、3D レンダリングという概念そのものが「次フレームの確率的予測」に置き換わる可能性を示した点です。モデリングやライティングといった膨大なパイプラインを世界モデルが肩代わりできるようになれば、ゲーム制作のワークフローは根本から変わる可能性があります。
カーマック氏の指摘通り、歴史的に見れば強力なツールの登場が産業を発展させてきたのは事実です。ただし懸念されるのは、過去のツール進化が産業の急拡大期に起きたのに対し、現在のゲーム業界は予算削減とレイオフの真っ只中にある点です。技術の必然性を説く巨頭たちの正論が、生活不安を抱えるクリエイター側の反感をさらに刺激してしまう構図は、今後も続きそうに見えます。
情報源 (1)
- arstechnica.com(新しいタブで開きます)原文arstechnica.com