東大チーム、顔と手のひらの動画から高血圧と糖尿病を非接触で検出するAI技術を発表
東京大学の研究チームは高速度カメラで撮影した顔や手のひらの血流変化をAIで解析し、カフや採血なしで高血圧や糖尿病を検出する予備研究を発表した。高血圧の検出精度は最大94%、糖尿病は75%を記録。将来的にスマホや鏡への搭載を目指すが、現在は研究の初期段階にある。

血圧を測るにはカフを腕に巻き、血糖値を調べるには指先に針を刺して採血する。この手間と痛みが嫌で、健康診断を先延ばしにしている人は少なくありません。
東京大学の研究グループが、その常識を覆すプロトタイプを発表しました。2024年11月に開催された米国心臓協会(AHA)の学術集会で、顔と手のひらを5秒から30秒ほど高速カメラで撮影するだけで、高血圧や糖尿病の兆候を検知できるAIシステムを報告しました。
毎秒150コマの動画から血流を可視化
研究を主導したのは、東京大学医学部附属病院高度循環器病学連携講座の研究生である内田良子氏らのチームです。高血圧や糖尿病になると、微小な血管障害や自律神経の影響で顔や手の血流パターンに特有の変化が生じます。
研究チームは毎秒150フレームで撮影できる高速カメラを使用し、顔の22カ所と手のひらの8カ所の皮膚表面における波長データを取得しました。このデータから脈波を抽出し、AIアルゴリズムで解析することで疾患の有無を判定します。
2022年8月から2024年5月にかけて東大病院で実施された臨床データ(平均年齢64歳の215名)によると、米国基準のステージ1高血圧(130/80 mm Hg以上)の検出において、連続血圧計との比較で94パーセントの精度を達成しました。
また、日本の降圧目標基準に基づく判定でも、30秒の撮影で86パーセント、わずか5秒の撮影でも81パーセントの精度で高血圧を検出できたといいます。
採血なしで糖尿病を75パーセントの精度で検出
驚きなのは糖尿病への応用です。過去1〜2カ月の平均血糖値を反映するHbA1c値(6.5パーセント以上)を基準とした比較において、非接触の動画解析だけで75パーセントの精度で糖尿病を検出しました。
末梢血管の血流障害が糖尿病の代表的な合併症であることから、その変化が皮膚表面の血流特徴として捉えられた格好です。
ただし、実用化にはまだ越えるべき壁があります。ワシントン大学のEugene Yang教授は、比較対象に使われた基準機器自体の検証プロトコルがまだ未確立である点に注意を促しています。
また、被験者がアジア系中心であること、病室内の管理された照明下で静止した状態で撮影された点も制約です。今後は不整脈を考慮したアルゴリズムの改良や、必要な波長だけに絞った安価なセンサーの開発を目指すとしています。
なぜ重要か
この研究の真価は、医療診断そのものの代替ではなく、日常における「受診のハードルをゼロにする」可能性にあります。
スマートウォッチなどのウェアラブル端末は長年、非侵襲の血圧・血糖測定に挑んできましたが、皮膚との密着度や測定精度の問題で決定打を出せていません。これに対し、カメラによる画像解析というアプローチは、洗面台の鏡やスマートフォンのインカメラに組み込める余地を残しています。
朝起きて鏡の前に5秒立つだけで、カフも針も使わずに生活習慣病の兆候をキャッチできるとすれば、自覚症状のない未病段階での早期受診を劇的に後押しするはずです。
とはいえ、糖尿病検出の精度75パーセントはスクリーニングとしてもまだ慎重な改善が必要ですし、肌の色や室内照明のばらつきへの対応もこれからです。今すぐアプリで使える魔法ではありませんが、スマートホームや予防医療の未来像として非常に筋の良い一手だと私たちは考えます。
情報源 (1)
- newsroom.heart.org(新しいタブで開きます)原文newsroom.heart.org