人型ロボットの1Xが世界モデル「1XWM」発表、動作予測で成否を事前評価
1Xは人型ロボットNEO向けの「1X World Model」を発表した。具体的な動作軌道から将来の映像やタスクの成功確率を予測し、実機を使わずにポリシーの信頼性を高速検証できる。ただし、未学習の物体との接触シミュレーションにはまだ課題が残る。
家庭用ロボットの開発で最も過酷なのは、実は学習そのものではなく「安全かつ確実に動くかのテスト」です。散らかった引き出しや模様替えされたリビングなど、無数の生活環境を実機で網羅しようとすれば膨大な時間がかかります。
人型ロボットを手掛ける1Xは2025年6月16日、ヒューマノイド「NEO」向けに開発した世界モデル「1X World Model(1XWM)」を発表しました。
ロボットが実際に行動を起こす前に、その動作が現実世界にどんな物理的結末をもたらすかを映像として予測し、タスクの成否まで事前判定するシステムです。
プロンプトではなく「精密な軌道」で操るシミュレータ
一般的な動画生成AIはテキスト指示から映像を作りますが、ロボット制御には使えません。数ミリの関節のズレが作業ミスに直結するからです。
1XWMは「アクション制御型」として設計されています。数フレームの実写映像やセンサー情報に加えて、具体的な関節の動作軌道をインプットすることで、以後の物理的な挙動を潜在空間で予測します。
同じ初期状態からでも、ロボットがマグカップを掴むのか、台所を拭くのか、後退するのか、あるいはエアギターを弾くのかによって、完全に異なる4つの未来を正確に描き分けます。さらに最終フレームの状態価値から、タスクが成功したかもスコア化します。
データ量を増やすほど物理の理解も深まります。初期の学習段階では、ノンフライヤーのバスケットと本体が一体化して認識され、引き出そうとして本体ごと倒すような物理的ハルシネーションが発生していました。しかし接触データを追加すると、バスケットがレールに沿って手前に引き出される挙動を正しく再現できるようになりました。
評価エンジンとしての実用性も高く、実世界での成功率の差が15%しかない2つのポリシーであっても、精度70%の世界モデルを使えば90%の確率で優れている方を正しく選別できるとしています。
ただし限界もあります。学習データに含まれていない観葉植物のような初見の物体に対しては、接触時の物理挙動を正確にシミュレーションできず、破綻が生じると1Xは説明しています。
なぜ重要か
私たちが注目すべきだと考えるのは、従来の物理シミュレータにつきものだった環境構築の手間を、生成AIのアプローチで置き換えた点です。
Isaac Simなどの物理エンジンで布や液体の挙動、雑多な家庭環境を再現するには気の遠くなる手作業が必要でした。1XWMはそれをデータ学習による予測に委ねることで、ポリシー検証のループを圧倒的に高速化しています。
ヒューマノイド開発のボトルネックが「実機テストの時間」から「GPUでの予測計算」へ移行すれば、開発競争のスピード感は一変します。LLMが合成データで自己進化したのと同様のブレークスルーがロボット工学でも起きる可能性があります。
懸念されるのは、予測モデル特有のハルシネーションです。モデル側がわずかでも摩擦や重量の予測を誤っていれば、シミュレーション上は成功していても実機で大事故を起こしかねません。未知の物体への対応力を含め、どこまで汎用化できるかが今後の実用化の鍵を握ります。
情報源 (1)
- 1x.tech(新しいタブで開きます)原文1x.tech