米上院が妥協案合意:州の独自AI規制を5年間凍結へ、著作権等は除外
米上院の有力議員は夜、連邦のブロードバンド予算を受け取る州に対し、今後5年間のAI規制を禁じる修正案で合意した。当初の10年凍結案から短縮され、児童保護や音楽の肖像・音声権利法は除外される。テック企業やVCの意向が反映された形だが、下院での可決は不透明だ。

全米の各州が競うように独自のAI規制を導入するなか、連邦議会がその動きを一気に止めにかかりました。
米上院の有力議員らは6月28日深夜、各州が独自のAI法を執行することを5年間にわたり一時停止する条項について合意に達しました。この措置はドナルド・トランプ大統領が主導する税制法案の一部として盛り込まれています。
ブロードバンド補助金と引き換えの「5年間凍結」
テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員が主導した当初案では、各州によるAI規制を10年間凍結する計画でした。しかし党内からも「大手テック企業への優遇だ」との批判が上がり、最終的に期間は5年間へと短縮されました。
巧妙なのはその縛り方です。州が新たに設けられる5億ドルのブロードバンド整備プログラムから連邦資金を受け取る場合、その見返りとして州独自のAI法を執行できなくなる仕組みになっています。通信インフラ予算が欲しければAI規制の手を引け、という事実上のバーター取引です。
この条項の背後には巨大テック連合が控えています。マイクロソフトやメタ、ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツが強力に後押ししてきました。
さらにマーク・アンドリーセン氏をはじめ、防衛テック企業アンドゥリルのパーマー・ラッキー創業者やパランティアの共同創業者ジョー・ロンズデール氏らトランプ氏に近い面々も賛成に回りました。ハワード・ラトニック商務長官は国家安全保障上の不可欠な措置と位置づけ、ホワイトハウスのAI顧問を務めるデイビッド・サックス氏やマイケル・クラツィオス氏も水面下で支持していました。
音楽業界の反発と子供の保護が残した抜け道
合意の決め手となったのは、最後まで抵抗していたテネシー州選出のマーシャ・ブラックバーン上院議員の妥協です。
音楽の都ナッシュビルを抱える同州は、ミュージシャンの声や肖像をAIで無断模倣することを禁じる「ELVIS法」を成立させたばかりでした。クルーズ氏の原案通りではこの保護策まで消し飛ぶ恐れがあったため、ブラックバーン氏は強硬に反対していました。
修正された条項では、オンラインにおける子供の安全保護に関する法律と、著作権に関する特定の州法が明確に除外されました。これによりELVIS法は維持されることになり、ブラックバーン氏も賛成に転じました。上院通過の公算は高まったものの、下院で支持を得られるかは依然として不透明です。
なぜ重要か
AIを開発するスタートアップにとって、州ごとに異なるバラバラな規制基準への対応は重い負担でした。大手企業なら法務チームを揃えて対処できますが、新興勢力には手が回りません。全米規模での足並みが5年間だけでも揃うなら、開発やサービス展開のハードルは確実に下がります。
一方で、この手法には大きな危うさがあると考えられます。連邦議会が包括的なAI法を成立させていない段階で、補助金を武器に州の独自規制を封じ込めるやり方は、事実上の規制の空白地帯を生み出しかねません。
各州はディープフェイクやアルゴリズムによる差別など、現実に起きている被害へ迅速に対応する防波堤の役割を果たしてきました。子供の保護や一部の著作権を除いて地方の監視機能を停止させてしまえば、利用者が新たなAI被害に遭った際の救済策が宙に浮くリスクは残ります。
情報源 (3)
- bloomberg.com(新しいタブで開きます)原文bloomberg.com
- the-decoder.com(新しいタブで開きます)報道the-decoder.com
- straitstimes.com(新しいタブで開きます)報道straitstimes.com