FPS向け世界モデル「SCOPE」公開:10自由度の操作で映像をリアルタイム生成
Wan2.2をベースにしたFPS向けオープンソース世界モデル「SCOPE」が公開された。移動や射撃など10自由度の操作をフレーム単位で反映し、未知のゲーム背景でもゼロショットで映像を生成できる。モデルの重み、推論コード、データセットがGitHubで提供されている。
AIでリアルな銃撃戦映像を生成すること自体は、もはや珍しくありません。しかしこれまでは、キャラクターがどこへ進み、いつ引き金を引くかを眺めるだけの観客にとどまっていました。
今回研究チームがオープンソースで公開した「SCOPE」は、コントローラーを使って実際に操作できるFPS向けの世界モデルです。手元のゲームパッド操作に合わせて、AIがリアルタイムにインタラクティブなゲームプレイ映像を紡ぎ出します。
本プロジェクトは、オープンソースの動画生成モデル「Wan2.2」(50億パラメータのWan2.2-TI2V-5B)をベースに構築されています。モデルの重み、推論用コード、そして学習用データセットであるCrossFPSがGitHubとHugging Faceで公開されました。
照準の内側と外側を切り離して計算する
世界モデルを手元の操作に追従させようとする際、最大の難関となるのがFPS特有の激しい同時操作です。プレイヤーは左右のアナログスティックで視点を回しながら移動し、同時に射撃やリロードを行います。
従来モデルは操作信号を画面全体に一律で適用していたため、射撃ボタンを押した瞬間に背景全体が歪むといった破綻が起きていました。SCOPEはこの問題を「空間デカップリング」という仕組みで解決しています。
Wan2.2が持つ30基のDiTトランスフォーマーブロックそれぞれに独自のアクションモジュールを組み込みました。移動や視点変更といった4軸のアナログ操作は時間方向のセルフアテンションで背景のスムーズな移動に反映し、射撃やリロードなどの6つの離散ボタン操作はクロスアテンションによって銃器の周辺だけに効果を限定します。セグメンテーションによる事前マスクなしで、激しい反動を描写しても背景がブレません。
生成スペックは解像度480×832、秒間20フレームで、基本は81フレーム(約4秒間)です。VRAMに余裕があれば、161フレームなどへの延長も可能です。
7作品の学習から、未知のゲームへゼロショット展開
チームはFPSの物理感覚を叩き込むため、7つのFPSタイトルから集めた6万9000クリップに10自由度の操作ログを同期させたCrossFPSデータセットを作成しました。
ベンチマークにおいて、SCOPEは既存のMatrix-Game 3.0やHY-World 1.5を大きく引き離すスコアを叩き出しています。たとえば「移動しながら撃つ」複合操作の反応率は、従来モデルが一桁台にとどまるなか76%を記録。「照準を覗きながら撃つ」操作は82%に達し、複合アクション全体の平均成功率は71.5%をマークしました。
さらに目を引くのがゼロショットでの適応力です。『黒神話:悟空』や『原神』、『It Takes Two』といった未学習タイトルの静止画を1枚与えるだけで、追加のファインチューニングなしにその世界観の中で銃を構えて動き回る映像を生成できます。
なぜ重要か
多くの動画生成AIが高精細な鑑賞用クリップの美しさを競い合っているなか、SCOPEは世界モデルを「眺めるもの」から「触れるプロトタイプ」へと明確に押し進めました。
インディーゲームの開発者や企画担当者にとって、これは初期検証のスピードを劇的に変えるツールになり得ます。本来なら3Dモデルを配置し、視点を設定し、キャラクターの移動スクリプトを組まなければ確認できなかったゲームの手触りや空間の雰囲気が、コンセプトアート1枚とゲームパッドだけで即座にテストできるからです。
技術的なアプローチも見事です。莫大な費用をかけて一から専用モデルを訓練するのではなく、Wan2.2の事前学習済み重みを凍結したうえで、軽量なアダプターをゼロ初期化の残差接続で追加しています。この現実的な設計思想は、今後の派生開発における優れた見本となるでしょう。
もちろん、現時点でUnreal Engineなどのゲームエンジンを置き換えるものではありません。480pの解像度で数秒間の生成にとどまり、重量級のGPUを要する現状では、ミリ秒単位のレスポンスが求められる本番環境には遠く及びません。それでも私たちは、ニューラルネットワークが描く「遊べる世界」の現実的な第一歩として、極めて注目すべき成果だと考えています。
情報源 (2)
- github.com(新しいタブで開きます)原文github.com
- z2tong.github.io(新しいタブで開きます)報道z2tong.github.io