MIT、拡散モデルで未知のタンパク質構造を生成する「FrameDiff」を発表
MIT CSAILの研究チームは自然界に存在しない新規タンパク質構造を生成するAIツール「FrameDiff」を発表した。画像生成で使われる拡散モデルを微分幾何の剛体フレームに応用し、既存の予測モデルに依存せず骨格を構築できる。標的創薬やワクチン開発の大幅な効率化が期待される。

自然界が何百万年もかけて進化させてきたタンパク質ですが、急速に変異する病原体やがんの進行を前に、人類はそのような時間を待つことはできません。
MIT CSAILの研究チームは、自然界にこれまで存在しなかったまったく新しいタンパク質構造をゼロから生成するAIツール「FrameDiff」を開発しました。
筆頭著者であるMIT博士課程のJason Yim氏らによる本研究は、7月の国際機械学習会議(ICML)で発表される予定です。
主鎖を「剛体フレーム」として扱う発想
新しいタンパク質を作るには、まずその3次元骨格である主鎖を正確に設計する必要があります。
研究チームは、主鎖上の3原子ごとのグループが共通の結合パターンを持っている点に着目しました。微分幾何学と確率論を取り入れ、これらのグループを3次元の位置と回転情報を持つ物理学の剛体「フレーム」としてモデル化しました。
ここで使われたのが、画像生成AIのMidjourneyなどでおなじみの拡散モデルです。フレームの位置や向きにランダムなノイズを加えてバラバラにし、アルゴリズムがそれを元の形へと復元するプロセスを学習させます。
チームはこの数理基盤として、リーマン多様体上の確率微積分を用いた「SE(3) diffusion」を構築しました。
既存の構造でこの組み立て手順をマスターしたモデルは、自然界の既存デザインに縛られることなく、未知のバックボーンを自由に生み出せるようになります。
予測モデルの「足場」をあえて外す
2021年に登場したAlphaFold2はアミノ酸配列から立体構造を推測する「予測」ツールでした。しかし、新薬や人工酵素の開発には、目的の形をゼロから生み出す「生成」の技術が必要です。
MITチームが開発したSE(3)拡散の理論は、すでにワシントン大学タンパク質設計研究所と共同で活用されており、RosettaFold2と組み合わせた「RFdiffusion」として、高精度な結合タンパク質や遺伝子導入ナノ粒子の設計に使われています。
今回のFrameDiffの際立った特徴は、そうした既存の構造予測モデルへの依存をあえて完全に捨て去った点にあります。
ハーバード大学の計算生物学者Sergey Ovchinnikov氏は、事前学習済み予測モデルを排除したことで、非常に長い構造を持つタンパク質でも高速に生成できる道が拓かれたと評価しています。
研究チームは今後、モデルの学習データを拡充してRFdiffusion並みの精度を目指すとともに、DNAや低分子化合物など他の生体分子への拡張も進める方針です。
なぜ重要か
創薬やバイオテクノロジーにおいて、目的の標的に強く結合するタンパク質を探す作業は、これまで莫大な時間とコストがかかるボトルネックでした。FrameDiffのような生成AIが進化すれば、標的分子に合わせた抗体や高効率な生体センサーをPC上で自在に設計できるようになります。
ただし、今すぐ誰でも臨床で使えるわけではありません。本成果は構造生成の基盤技術であり、AIが描いた長大な骨格が実際のウェットラボで狙い通りにフォールディングするか、毒性や免疫反応を起こさないかは、実証実験を積み重ねる必要があります。
私たちが注目すべきだと考えるのは、FrameDiffが選んだ「引き算」の設計アプローチです。予測モデルを併用する従来の手法は強力な反面システムが重くなりがちですが、純粋な幾何学と拡散モデルだけで同等以上の造形が可能だと証明した意味は小さくありません。
巨大な既存モデルの制約を外したことで、長鎖タンパク質の de novo(ゼロからの)設計にかかる計算コストが大きく下がる可能性があります。生物学のものづくりは、自然からの「選別」から完全な「生成」へと着実に舵を切り始めています。
情報源 (1)
- news.mit.edu(新しいタブで開きます)原文news.mit.edu