マイクロソフト、トポロジカル量子チップ「Majorana 1」を発表
マイクロソフトは独自のトポロジカルコアを搭載した初の量子チップ「Majorana 1」を発表した。新素材トポコンダクターによりマヨラナ粒子を制御し、高い安定性とデジタル制御を実現。手のひらサイズの単一チップで100万量子ビット規模への拡張を目指し、材料科学やAI連携の実用化を早める狙いだ。
量子コンピューターの実用化に向けた最大の壁は、量子ビットを増やすことではなく、環境ノイズですぐに壊れてしまう脆さをどう抑えるかという点にありました。
米マイクロソフトは2月19日、トポロジカル・コア・アーキテクチャを採用した世界初の量子プロセッサー「Majorana 1」を発表しました。同社は、産業レベルの実用的な計算能力を備えた量子コンピューターの実現が「数十年先ではなく、数年以内に迫った」としています。
固・液・気でもない「第4の物質状態」を活用
現在主流の超伝導やイオントラップ方式の量子ビットは、わずかな振動や温度変化でもエラーを起こします。これに対し、マイクロソフトが約20年にわたり追究してきたのが「トポロジカル量子ビット」と呼ばれるアプローチです。
Majorana 1では、ヒ化インジウムとアルミニウムを原子レベルで積層した「トポ導体」と呼ばれる新素材が開発されました。固体、液体、気体のいずれとも異なるトポロジカルな物質状態を作り出し、理論上の存在だったマヨラナ粒子を生成・制御することに成功しています。この成果は2月19日付の英科学誌Natureに掲載されました。
マヨラナ粒子の特性により、ハードウェアレベルで高いエラー耐性を持ちます。さらに、従来のアナログ制御とは異なり、マイクロ波を用いたデジタル制御を可能にしたことで、制御系の大幅な簡素化に道を開きました。
現在のMajorana 1に搭載されているトポロジカル量子ビットは8個ですが、手のひらサイズの単一チップ上に100万量子ビットを集積可能な設計になっています。同社はこの技術力により、米国国防高等研究計画局(DARPA)の実用規模量子コンピューティング評価プログラム(US2QC)の最終フェーズに進む2社のうちの1社に選定されています。
なぜ重要か
一般のユーザーや企業がすぐに利用できる段階ではありませんが、材料科学や化学の分野にとっては開発サイクルの前提を覆す可能性があります。100万量子ビットの計算力があれば、自然界の分子挙動を正確にシミュレーションできるため、自己修復機能を持つ新素材や、マイクロプラスチックを分解する触媒の開発を、長年の試行錯誤なしに実現できると期待されています。
量子コンピューティング業界にとっても、競争の構図を大きく揺るがす動きです。IBMやGoogleなどが先行する超伝導方式は、エラー訂正のために大量の物理量子ビットを必要とし、配線や冷却装置の巨大化という壁に直面しています。これに対し、エラーに強いトポロジカル方式が物理的に動作可能だと示されたことは、ゲームのルールを変える契機になり得ます。
マイクロソフトのアプローチは極めて合理的で、リスクを背負ってでも根本的なスケーラビリティを優先した賢い選択に見えます。ただし、8量子ビットの実証から100万量子ビットの量産チップに至るまでには、材料の均一性や製造歩留まりなど、依然として巨大な工学的課題が残されています。物理学的なブレークスルーが、どこまで計画通りのスピードで量産技術に結実するかを見極める必要があります。
情報源 (1)
- news.microsoft.com(新しいタブで開きます)原文news.microsoft.com