Google DeepMind、映画監督アロノフスキーと連携:Veoで実写とAIを融合した短編を公開
Google DeepMindは映画監督ダーレン・アロノフスキーのスタジオと提携した短編映画『ANCESTRA』をトライベッカ映画祭で初公開しました。動画生成モデルVeoを活用し、カメラワークを同期させるモーションマッチングや実写へのAI映像合成によって、リアルな新生児などを実写シーンに自然に溶け込ませています。

映画の撮影現場に本物の新生児を連れてきて過酷な照明を当てるのは極めて難しく、かといってフルCGで作れば不気味の谷現象に直面します。
トライベッカ映画祭で初公開された短編映画『ANCESTRA』で、エリザ・マクニット監督はその難題に新しいアプローチを取りました。実写の俳優に赤ちゃんを抱く演技をさせ、その腕の中にGoogle DeepMindの動画生成AI「Veo」で生成したリアルな新生児を合成したのです。
本作は、DeepMindとダーレン・アロノフスキー監督が率いるスタジオPrimordial Soupが提携した短編3部作の第1弾です。200人以上の伝統的な映画クルーやVFXアーティストがAIエンジニアとタッグを組みました。
カメラワークをAIに厳密にトレースさせる
これまでの動画生成AIはプロンプトを入力して運任せで結果を待つ傾向が強く、ミリ単位のアングル調整が求められる映画制作には不向きでした。
心臓に穴が開いた状態で生まれたマクニット監督自身の実体験を描くため、まず父親が撮影した当時の写真をGeminiに読み込ませました。Geminiが抽出した詳細な美的描写をもとにImagenでコンセプトアートを作成し、トーンを統一しています。
現場で最も役立ったのが「モーションマッチング」技術です。体内を通り抜けて子宮内の帝王切開に到達するシーンでは、まず3Dモデル空間で仮想カメラを動かした下書き映像を作りました。
Veoはその下書きカメラの動きを追跡し、全く同じカメラワークを保ったまま写実的な映像を生成しました。心臓の欠損孔が塞がるような有機的な動きも、参考映像を与えることでわずか数分で生成できたといいます。
伝統的なVFXパイプラインとの融合
本作のアプローチが賢いのは、全編をAI任せにするのではなく、実写映像の中にAIパーツをはめ込んだ点です。
出産のシーンでは、実写クリップ内の指定したエリアにVeoの新機能を使って赤ちゃんだけを生成・追加しました。その後、人間のVFXアーティストとカラリストが色調補正や輪郭の馴染ませを行っています。
夕暮れ時に割れるワニの卵の内部から母親を見上げるショットなど、複雑な質感のカットも複数のAI生成素材を従来の合成ソフトで重ね合わせて仕上げられました。
なぜ重要か
この取り組みは、生成AIが映画業界全体を置き換えるのではなく、既存の制作現場における「高性能なプラグイン」としてどう機能するかを示した好例だと私たちは考えます。
これまで公開されてきたフルAI短編は、カメラの制御が効かず漂うような不自然なカットになりがちでした。カメラワークを3Dの下書きで拘束し、必要な部分だけを生成して伝統的なグレーディングに戻すパイプラインは、非常に現実的で洗練されています。
インディーズ映画監督やVFXスタジオにとって、この手法が一般化すれば、これまで莫大なCG予算が必要だった生体表現や特殊アングルを劇的な低コストで実現できるようになります。
ただし、今回はDeepMindの専門チームが裏側でモデルの微調整を行った特別体制である点には注意が必要です。こうした精密なカメラ制御やオブジェクト追加機能が一般のクリエイター向けツールに標準搭載されて初めて、映像制作の現場に本当の革命が起きるはずです。
情報源 (1)
- blog.google(新しいタブで開きます)原文blog.google