生成AIと基盤モデルの経済学:従来型AIの限界を破るビジネスモデル
生成AIと基盤モデルが従来のAIビジネスモデルをどう変革するかを論じる分析記事が公開された。長尾問題により高コストと低利益率に陥りがちだった従来のAIに対し、ChatGPTのように短期間で急成長する生成AIは新たなユーザー行動を生み出している。これにより、スタートアップでも巨頭に対抗できる経済的基盤が整いつつあるという。

長年、AIスタートアップはSaaSのような高収益ビジネスを夢見て挑戦を続けてきましたが、実際に巨額の利益を手にしてきたのはGoogleやMetaなどの巨大テック企業でした。独立系の専業スタートアップの多くは、途中でスケールの壁にぶつかってきました。
ベンチャーキャピタルのa16zが公開した論考は、従来のAIがなぜ魅力的なビジネスモデルを築けなかったのか、そして生成AIがその構造をどう塗り替えつつあるのかを経済的な視点から明快に解き明かしています。
さくらんぼ収穫の罠と「平凡のスパイラル」
従来のAIが抱えていた最大の足かせは、技術の未熟さではなく、精度向上に伴うコストの爆発でした。
たとえば、さくらんぼを収穫するロボットを作る場合、精度80%を達成するのに2000万ドルかかったとします。しかし、これを90%に引き上げるには2億ドル、95%を目指せば10億ドルに跳ね上がる可能性があります。精度を極めようとするほど投下資本に対するリターンは激減し、先行者が莫大な研究開発費を溶かす横で、追随者がはるかに安いコストで追いついてしまう逆モート現象が起きていました。
さらに手強い競争相手が人間です。人間の脳はお粥一杯のエネルギーとわずか150ワット程度で動き、知覚処理だけなら12ワット程度しか使いません。一方、ハイエンドな自動運転車の車載システムは1300ワット以上を消費します。世界平均の時給が約5ドルにとどまるなか、750億ドル以上が投じられた自動運転技術であっても、配車サービスや生身のドライバーと比べて経済的な優位性を確立するのは容易ではありません。
その結果生じるのが、a16zの言う「AIの平凡化スパイラル」です。スタートアップは初期の精度不足を補うために人間の作業員を雇い、AIが8割を処理して残りの2割の例外を人間がカバーする体制を作ります。しかし投資家から成長を急かされると、技術の自動化より人手の増員でスケールを繕うようになり、気づいたときには粗利率の低い受託サービス企業のような組織になってしまうのです。
許容度と新行動がゲームを変える
生成AIと基盤モデルが決定的に異なるのは、この泥沼から脱出できる条件を備えている点です。
第一に、求められる正解の性質が変わりました。自動運転や小切手の読み取りとは違い、画像生成や文章作成などの領域では多少のブレや揺らぎが許容され、むしろそれが価値になることもあります。バックヤードで常に人間が見張る必要性が大幅に薄れました。
第二に、これまでのAIが既存ツールの改善にとどまっていたのに対し、基盤モデルは全く新しいユーザーの利用習慣を生み出しています。ChatGPTがわずか5日で100万ユーザーに到達したスピードは、従来のAIプロダクトでは考えられなかった爆発力です。
なぜ重要か
私たちは、a16zが示したこの分析枠組みは、現在AIアプリを開発しているすべてのチームにとって極めて重要な羅針盤になると考えています。
もし自社のプロダクトが1回のミスも許されない業務領域をターゲットにしているなら、過去のスタートアップと同じように、例外処理のために人間を雇い続けて利益率を圧迫するリスクを警戒すべきです。
現在試すべきなのは、ある程度の曖昧さが許容され、AIが純粋な創造的レバレッジとして働くユースケースです。そこでは人間の代替ではなく、人間の能力拡張としてソフトウェア本来の高い粗利を狙えます。
もっとも、人件費の泥沼を回避できたとしても、生成AIには莫大な推論コストやインフラ費用という新たな頭痛の種が控えています。巨大モデル企業に依存するスタートアップが、単なる機能提供にとどまらず独自の持続可能な経済性を確立できるかどうかが、次の勝敗を分けるはずです。
情報源 (1)
- a16z.com(新しいタブで開きます)原文a16z.com