AutoRT・SARA-RT・RT-Trajectory発表:ロボットの動作速度と汎化性能を強化
研究チームはロボット制御を進化させる AutoRT、SARA-RT、RT-Trajectory を発表した。AutoRT は大規模基盤モデルで実環境データを安全に自動収集し、SARA-RT は注意機構を線形化して判断速度を 14% 向上。RT-Trajectory は軌跡情報で未知タスクの成功率を 2 倍以上に高めた。

ロボットに机を拭かせる作業は、AIにプログラミングをさせるよりもはるかに難しい課題です。現実世界の物理的な動作データは集めるのが難しく、センサー情報が増えると処理速度が落ち、環境が少し変わるだけで動かなくなってしまいます。
Google DeepMindはこうした課題を解決するため、AutoRT、SARA-RT、RT-Trajectoryという3つのロボティクス研究成果をまとめて発表しました。
大規模モデルを現場監督にして「憲法」を守らせる
実世界で動くロボットを育てる上で最大の壁は、多様な実地データの不足です。AutoRTは、大規模言語モデルと視覚言語モデルをロボット部隊の司令塔にするシステムです。
ロボットがカメラで室内を見渡すと、視覚モデルが周囲の物体を認識します。次に言語モデルが、スナックをカウンターに置くといった具体的なタスクを提案し、最適な作業を選択してロボットに指示を出します。
オフィスビルで行われた7カ月間の実証実験では、最大20台のロボットを同時に制御し、累計52台のロボットを使って6650種類、計7万7000回の試行データを安全に収集しました。
安全対策として、アシモフのロボット工学三原則に着想を得たロボット憲法が導入されています。人間を傷つけないことを最優先とし、人間や動物、鋭利な刃物、電化製品が関わるタスクは選択から除外されます。ソフトウェアの自己検証だけでなく、関節に一定以上の負荷がかかると自動停止する仕組みや、人間の監視員による物理的な非常停止スイッチも併用されました。
処理を身軽にし、動作の軌跡を描き込む
データが集まっても、ロボットの反応が遅ければ実用には耐えません。ロボット制御に使われるTransformerモデルは、入力データが増えると計算量が二乗で膨らむ弱点があります。
SARA-RTは、up-trainingと呼ばれる微調整手法を用いて、この計算量を線形に抑え込む技術です。数十億パラメータを持つRT-2モデルに適用したところ、精度が10.6パーセント向上しながら推論速度は14パーセント高速化しました。点群データを扱うモデルでは速度が2倍以上に向上しています。
もう一つのRT-Trajectoryは、未経験の作業への適応力を高めるアプローチです。訓練用動画にロボットアームの動きを示す2Dの軌跡スケッチを自動で重ね合わせることで、ロボットに具体的な動き方の手本を視覚情報として教えます。
学習データに含まれていない41種類の未知のタスクでテストしたところ、従来のRT-2の成功率が29パーセントにとどまったのに対し、RT-Trajectoryは63パーセントと2倍以上の成功率を達成しました。人間が手描きしたスケッチや実演動画から軌跡を生成することも可能です。
なぜ重要か
私たちは、今回の発表がロボット開発のボトルネックを現実的なアプローチで解きほぐした好例だと考えています。
これまで実世界のデータ収集は、人間が遠隔操作でロボットを動かして手作業で集めるか、シミュレータ上で仮想データを生成するしかありませんでした。AutoRTは、大規模モデル自身に作業を考えさせて現場でデータを自律収集できることを示しており、物理データの蓄積ペースを大きく加速させます。
SARA-RTのアプローチも実践的です。コストのかかる事前学習を一からやり直す必要がなく、既存のTransformerをそのまま軽量化できるため、計算資源が限られるエッジ端末に高度なモデルを載せる現実的な道筋を作りました。
ただし課題も残されています。ロボット憲法という安全プロンプトを用意しても、現場には物理スイッチを持った人間の監視員が張り付く必要がありました。ソフトウェアによる安全制御への完全な信頼が確立されない限り、人間のいない環境での完全自律運用にはまだ時間がかかりそうです。
情報源 (1)
- deepmind.google(新しいタブで開きます)原文deepmind.google