AIが有機太陽電池の分子を解明:光安定性を4倍に向上
イリノイ大学などの共同研究チームがNature誌に論文を発表しました。AIによる閉ループ実験と自動合成プラットフォームを組み合わせることで、有機太陽電池向け分子の光安定性を4倍に高めることに成功。AIの判断根拠となる化学的メカニズムも解明し、ブラックボックス打破に貢献しています。
屋根の上に並ぶ太陽光パネルは重く、硬い板状のものが大半です。研究者たちは長年、ラップのように薄く曲げられる有機薄膜太陽電池の実現を目指してきました。しかし1980年代から、太陽光を集めるはずの分子が光を浴びると急速に劣化してしまうという致命的な耐久性の壁に阻まれてきました。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校とトロント大学の共同研究チームが、英科学誌Natureに画期的な成果を発表しました。AIと自動化学合成を組み合わせた実験系により、光に対する安定性が従来比で4倍高い集光分子の開発に成功したのです。
ブロックを組み立てるようにAIとロボットが疾走
材料科学における最大のボトルネックは、AIが有望な分子を提案しても、人間の化学者が実験室で合成するまでに何カ月もかかってしまう点にありました。
研究チームはイリノイ大学の分子合成研究所で、モジュール式合成と呼ばれる仕組みを活用しました。分子をレゴブロックのように規格化されたパーツとして扱い、ロボットが自動で組み上げていきます。
アルゴリズムが学習効果の高そうな候補を選び出し、自動合成プラットフォームが即座に物質を作って耐光性を測定し、その結果をAIに戻すという閉ループ実験を構築しました。5回のループを経て合成された候補分子は30種に達し、周回を重ねるごとに耐久性が高まっていきました。
AIのブラックボックスを透明なガラス球へ
今回の真の成果は、単に長持ちする分子を当てたことだけではありません。従来のAI創薬や材料探索では、なぜその構造が優れているのかという物理的理由が分からないブラックボックス問題が常について回りました。
そこでチームは、実験と並行して分子の特徴量を分析する別のアルゴリズムを走らせました。その結果、分子内の特定の高エネルギー領域と適切な溶媒の組み合わせが耐光性を保つ鍵であるという仮説をAIが導き出しました。
化学者のニコラス・ジャクソン教授はこの仕組みを、AIのブラックボックスを透明なガラス球に変えたと表現しています。この仮説をもとに骨格の異なる3種類の分子で検証したところ、いずれも耐光寿命が4倍に延びることが実証されました。
なぜ重要か
曲げられる有機太陽電池の実用化に足踏みしてきた業界にとって、耐久性が4倍に跳ね上がった意義は小さくありません。窓ガラスや衣服、曲面だらけの建材など、従来のシリコンパネルでは設置できなかった場所で発電できる未来が現実味を帯びてきます。
私たちは、この研究で最も優れているのはAIに単なる答え当てをさせず、人間が検証できる化学のルールを言語化させた点にあると考えます。科学者がAIの出力結果を盲信するのではなく、導き出された物理的特徴を手がかりにして新しい探索を主導できるからです。
ただし、今すぐ家庭用のフィルムパネルが手に入るわけではありません。実験室での光劣化を防ぐことと、屋外の雨風や酸化に耐えうる実製品を作るのとでは求められる耐久性の次元が異なります。それでも、自動合成ロボットとAI仮説生成が結びついたこの開発スタイルは、新素材開発の期間を劇的に縮める確固たる土台になりそうです。
情報源 (1)
- scitechdaily.com(新しいタブで開きます)原文scitechdaily.com