本文へスキップ
IFAI

研究

MRI画像から希少な認知症を識別、独マックス・プランク研究所などのAI研究

公開 拡散指数 31

独マックス・プランク研究所などの研究チームは、頭部MRI画像から希少な認知症を高精度に識別する機械学習モデルを発表した。健常者との鑑別にとどまらず、進行性失語など7種類の認知症症候群を相互に見分ける。早期の正確な診断により、患者ごとの個別治療や社会生活の維持を後押しする成果だ。

MRI画像から希少な認知症を識別、独マックス・プランク研究所などのAI研究
画像:neurosciencenews.com

40歳の営業職の男性、Mさんはある日、普段あまり使わない「ヒレ」や「詰め物」といった単語がパッと出てこないことに気づきました。知り合いの名前も思い出せず、キリンに毛があるのか鱗があるのかさえ分からなくなってしまいます。頭部MRIを撮ると側頭葉の萎縮が見つかりましたが、若年期に起きるこの異変の正体は何だったのでしょうか。

診断結果はアルツハイマー病ではなく、「原発性進行性失語症の意味変異型」という認知症の希少疾患でした。ドイツのマックス・プランク人類認知・脳科学研究所(MPI CBS)とライプツィヒ大学医療センターの研究チームは、機械学習を用いてこうした希少な認知症をMRI画像から早期に特定する研究成果を発表しました。

アルツハイマーの影に隠れる希少疾患

認知症といえば記憶障害を伴うアルツハイマー病が有名ですが、言語、性格、運動機能の変化として現れる疾患も数多く存在します。

これらは「オーファンジジーズ(希少疾患)」と呼ばれ、比較的若い年齢で発症しやすい特徴があります。専門の医療機関でなければ正確な鑑別が難しく、診断が遅れがちになるのが長年の課題でした。

研究チームはドイツ前頭側頭葉変性症研究コンソーシアムの複数拠点から、患者426名と健康な対照群51名のT1強調MRIデータを収集しました。対象にはアルツハイマー病のほか、行動障害型前頭側頭型認知症、原発性進行性失語症の3つの亜型、さらに進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核症候群といった非典型パーキンソン症候群が含まれています。

7つの病態を見分ける機械学習モデル

研究チームはアトラスベースの脳体積測定を行い、サポートベクターマシン(SVM)を用いて分類を行いました。

まず各疾患と健康な人を識別する「2値分類」では、正解率71〜95%という高い精度を記録しました。モデルが重視した特徴量は、それぞれの病気特有の脳萎縮パターンと正確に一致していました。

さらに踏み込んだのが、7つの疾患群を互いに鑑別する「多クラス分類」です。このモデルは偶然正解する確率の3倍以上の精度を達成しました。ただし100%には程遠く、特定の脳領域に明確な萎縮パターンが出る疾患ほど判別しやすいなど、疾患ごとにばらつきがありました。また、病気が進行するほど健康な人との区別は容易になる一方、異なる認知症同士を見分けるには、病気の重症度や期間において「最適なウィンドウ」が存在することも明らかになりました。

前述のMさんは、早期に的確な診断を受けたことで集中的なリハビリ療法を開始でき、診断から8年が経過した現在も営業職として仕事を続けられています。

なぜ重要か

若くして記憶や言語に違和感を覚えた患者にとって、最も恐ろしいのは原因が分からないまま誤った治療を受け続けることです。早期に正しい診断が下りれば、適切なリハビリによって仕事を続け、生活の質を保てる期間を大きく延ばせます。

医療AIの観点では、「病気か健康か」を見極める初期段階の研究から、「似通った難病の中からどれに該当するか」を突き止める鑑別診断へ踏み込んだ点に大きな意義があります。標準的なMRI画像からこれだけの情報を引き出せることは、専門医が不足している地域医療にとって強力な援護射撃になります。

アプローチとしても、説明が困難な複雑なディープラーニングに頼り切るのではなく、解剖学的な脳体積測定とSVMを組み合わせた堅実さが光ります。どの脳部位の萎縮を根拠に判断したのかを医師自身が確認できるためです。

一方で、多クラス分類の精度は臨床の確定診断に単独で使える水準にはまだ達しておらず、病期によって判別しやすさが変動する制限もあります。現時点ではAIに診断を任せるというよりも、専門医への紹介が必要なケースを拾い上げるスクリーニング支援としての活用が現実的だと私たちは考えます。

情報源 (1)

  1. [1]
    neurosciencenews.com(新しいタブで開きます)原文neurosciencenews.com

毎日のAIピックアップ