AIでヘビ毒の抗毒素をゼロから設計、マウス実験で最大100%生存
デヴィッド・ベイカー氏らのチームは、ヘビ毒を中和する人工タンパク質をAIで設計したとNature誌で発表した。コブラの致死的な神経毒に結合し、マウス実験で最大100%の生存率を記録。微生物で安価に量産できる利点があるが、複合毒全体を防ぐにはまだ既存の動物血清との併用が必要となる。

猛毒を持つコブラに噛まれたとき、病院で打たれる抗毒素血清は、実は100年前とほぼ同じやり方で作られています。馬などの動物に少しずつ毒を注射し、体内で作られた抗体を血液から取り出すという手法です。
この旧来の方法はコストが高く、重い副作用のリスクがあり、毒の種類によってはほとんど効かないこともありました。そこにAIが切り込みました。
2024年のノーベル化学賞を受賞したワシントン大学のDavid Baker氏と、デンマーク工科大学のTimothy Patrick Jenkins氏らの研究チームは1月15日、コブラ毒の致死成分を無力化するタンパク質をAIでゼロから設計したとNature誌で発表しました。
100年以上変わらなかった血清作りにAIがメス
世界保健機関(WHO)のデータによると、世界で毎年180万から270万人が毒蛇の被害に遭い、約10万人が死亡、手足の切断など重い後遺症を負う人はその3倍に上ります。被害の多くはアフリカやアジア、中南米などの農村部に集中しており、高価な血清の供給が追いついていません。
従来の血清が効きにくい原因の一つが、コブラ毒に含まれる「スリーフィンガートキシン」と呼ばれる毒素です。分子が小さいため動物の免疫系をすり抜けやすく、抗体が十分に作られません。
研究チームは動物を使わず、ディープラーニングを使って毒素に結合して無力化するタンパク質をコンピュータ上で直接設計しました。マウスを使った実験では、致死量の毒素を投与されたマウスの生存率が80パーセントから100パーセントに達したといいます。
動物の血液を使わず微生物で培養
このアプローチの強みは、開発と製造の両面で圧倒的に手軽な点にあります。
Baker氏によると、設計ソフトの精度が極めて高いため、研究室で何回も実験を繰り返す必要がなく、わずか数種類の分子を合成してテストするだけで効果的な抗毒素が見つかりました。
また、設計されたタンパク質は通常の抗体よりも小さいため、体内の組織の奥深くまで素早く届き、毒が回る前に対処できる期待があります。生産も馬を飼育する必要はなく、遺伝子を組み込んだ微生物を使ってタンクで発酵生産できるため、製造コストの大幅な削減が見込めます。
ただし、本物の蛇毒は複数の毒素が混ざり合った複雑なものです。今回のタンパク質は最も危険な神経毒成分に特化しているため、当面は従来の血清の効果を補強する強化剤としての利用が現実的だと研究チームは説明しています。
なぜ重要か
今回の成果は、AIによるタンパク質設計が「顧みられない熱帯病」の現場を直接救える可能性を示した点で、非常に大きな意味があると考えます。
蛇毒の治療薬は、大半の患者が発展途上国の貧しい地域にいるため、製薬会社が多額の開発費を投じにくい分野でした。その結果、100年前の技術に頼り続けるしかなかった領域に対し、AIが計算コストだけで一気に突破口を開いた格好です。
微生物による大量生産が可能になれば、冷蔵保存が難しく医療インフラが乏しい地域にも安定して安価な薬を届けられるようになります。
もちろん、マウスでの成功がそのまま人間で通用するかは臨床試験を待つ必要がありますし、複合毒にどう立ち向かうかという課題も残っています。それでも、これまで自然の免疫系が捉えきれなかった毒素に対し、コンピュータ上でピンポイントの対抗手段を組み上げられると証明された価値は極めて高いと言えます。
情報源 (1)
- scitechdaily.com(新しいタブで開きます)原文scitechdaily.com