本文へスキップ
IFAI

研究

生体電圧で動く人工ニューロン開発:消費電力を100分の1に削減

公開 拡散指数 36

マサチューセッツ大学アマースト校の研究チームは、生体細胞と同等の約0.1ボルトで作動する人工ニューロンを開発した。従来の100分の1の電力で本物の神経パルスを再現し、生体細胞とのリアルタイム通信に成功。信号増幅器が不要な超小型インプラントに道を開くが、実用化には長期検証が必要だ。

生体電圧で動く人工ニューロン開発:消費電力を100分の1に削減
画像:earth.com

電子回路と脳細胞を直接つなぐ上で、長年の最大の壁となってきたのはアルゴリズムではなく「電圧」でした。

生体の神経細胞(ニューロン)は通常、70〜130ミリボルトというごく微弱なパルスで信号を伝達します。一方で、これまでの人工ニューロンは作動に0.5ボルト以上を必要とすることが多く、生体にとって過大な電圧と熱をもたらすため、生きた細胞と安全に直接接続することは困難でした。

マサチューセッツ大学アマースト校の姚俊(Jun Yao)氏らの研究チームは、生体神経と同じ約0.1ボルトで作動する低電圧人工ニューロンを開発したと学術誌『Nature Communications』で発表しました。従来モデルと比べて電圧を10分の1に抑え、消費電力を100分の1に激減させることに成功しています。

細菌由来のナノワイヤが生んだ生体リズム

この極低電圧スイッチングを実現した鍵は、微生物の力でした。研究チームは、細胞外へ電子を運ぶ能力を持つ硫黄還元細菌(Geobacter sulfurreducens)から採取したタンパク質ナノワイヤを活用し、中核となるメムリスタ素子を調整しました。

この素子はわずか約60ミリボルト、1.7ナノアンペアの微小な入力でオンになり、発火後は自動的にリセットされます。これにより生体神経特有の「不応期」が生まれ、持続的なノイズにならず本物の神経のような単発パルスを出力できるようになりました。

さらに、脳内の化学シグナルも再現しています。ナトリウムイオンセンサーによって発火周期を変化させ、グラフェンを用いたドーパミンセンサーで濃度に応じた双方向の応答を実現。単なる電気パルスだけでなく、生体特有の化学的コンテキストも読み取れる設計です。

実証実験では、生きた心筋細胞の周囲にグラフェンメッシュを配置して接続しました。正常な鼓動時には静寂を保ち、薬物投与によって拍動リズムが乱れた瞬間に人工ニューロンがスパイクを発火。生体組織とのリアルタイムな電気的対話が可能であることを実証しました。

なぜ重要か

私たちは、この研究の最大の功績は処理能力の競争ではなく「生体への歩み寄り」にあると考えます。従来のニューロモルフィック技術は高度な計算を追求するあまり高電圧になりがちでしたが、今回は電子側を生体レベルまで引き下げる道を選びました。

医療インプラントやウェアラブル分野へのインパクトは絶大です。従来の生体センサーは、微弱な生体信号を処理するために前段でアンプ(増幅回路)を噛ませる必要があり、それが消費電力と発熱、機器の肥大化を招いていました。生体電圧でそのまま動くニューロンが実用化されれば、増幅回路を排した極小・超低消費電力の脳内チップが実現可能になります。既存のシリコン半導体製造ラインを応用できる点も賢いアプローチです。

とはいえ、過度な期待は禁物です。今回の実験は培養皿上の心筋細胞を用いたプロトタイプに過ぎず、人脳への直接接続には生体適合性の持続性や免疫反応など、解決すべき課題が山積みです。それでも、生体と機械を隔てていた電気的な壁を一段崩した意義は非常に大きいと言えます。

情報源 (1)

  1. [1]
    earth.com(新しいタブで開きます)原文earth.com

毎日のAIピックアップ