Nvidia、GPUで量子計算をシミュレートする「Quantum Cloud」発表
NvidiaはGPU上で量子プロセッサをシミュレートできる新クラウドサービス「Nvidia Quantum Cloud」を発表した。材料科学や創薬などの量子アルゴリズム検証を支援するほか、耐量子暗号ライブラリ「cuPQC」も公開。現在アーリーアクセスを提供している。

本物の量子コンピュータが安定して動くのを待つくらいなら、手元のGPUで丸ごとエミュレートしてしまえばいい。Nvidiaが打ち出したのは、まさにそうしたアプローチです。
同社は年次カンファレンス「GTC」において、研究者や開発者向けの新サービス「Nvidia Quantum Cloud」を発表し、早期アクセスを開始しました。物理的な量子処理装置(QPU)を使わず、GPUインフラ上で量子アルゴリズムを構築・検証できるマイクロサービスです。
GPUで量子ビットを力技再現する
現在存在する物理QPUはエラーが多く、本格的なアルゴリズムを検証するには性能も安定性も足りていません。そこでNvidiaは、シミュレーションソフト「cuQuantum」とハイブリッド開発基盤「CUDA-Q」を活用し、GPU上で仮想QPUを動かす環境を提供します。
すでにQPUを導入している組織の約4分の3がCUDA-Qを採用しているとされ、今回のクラウドサービスもAWS、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloudに加え、IonQやIQMといった量子専業クラウドでも展開されます。
実際の成果も出始めています。英大手銀行のHSBCは、CUDA-Qを用いて165量子ビットの大規模シミュレーションを実行し、不正取引を検知する新たな量子機械学習アルゴリズムを開発しました。また、日本の産業技術総合研究所(AIST)が構築を進める新スーパーコンピュータ「ABCI-Q」には、2000基以上のNvidia H100 GPUが搭載され、量子シミュレーションの基盤として稼働する予定です。
「量子耐性暗号」もGPUで500倍速に
量子技術の実用化とセットで問題視されているのが、既存の公開鍵暗号が一瞬で破られるセキュリティリスクです。
これに対しNvidiaは、ポスト量子暗号(PQC)を高速化するライブラリ「cuPQC」を発表しました。Open Quantum Safeプロジェクトの検証によると、耐量子アルゴリズム「Kyber」をNvidia H100上で実行した場合、従来のCPUと比較して最大500倍の高速化を記録したといいます。次世代のBlackwellアーキテクチャではさらなる向上が見込まれています。
なぜ重要か
研究者や企業にとって、物理的な量子マシンを確保するハードルは極めて高いのが現実です。Quantum Cloudを使えば、使い慣れたクラウド環境から即座にアルゴリズムの実験を始められるため、量子技術の研究開発にかかる初期コストと時間を大幅に削減できます。
業界全体から見れば、Nvidiaの立ち回りは非常に巧みです。将来的に量子技術が台頭してGPUを脅かす可能性を警戒するのではなく、シミュレーションと暗号防御の両面でGPUを不可欠な存在にし、量子と古典コンピュータの「架け橋」というポジションを先手を打って固めました。
ただし、GPUによるシミュレーションには物理的な限界があります。量子ビット数が増えれば必要となるメモリ容量は指数関数的に膨れ上がるため、どこまでも本物の代用ができるわけではありません。それでも、真に実用的な耐故障性量子コンピュータが登場するまでの長い移行期において、Nvidiaが覇権を維持するための強力な布石になることは間違いありません。
情報源 (1)
- siliconangle.com(新しいタブで開きます)原文siliconangle.com