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研究

マウスの脳活動から動画を再構成、UCLが単一細胞レベルの解読に成功

公開 拡散指数 36

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)の研究チームは、マウスの視覚野における単一神経細胞の活動データのみから、10 秒間の動画を高精度に再構成することに成功した。運動や瞳孔の変化といった生体状態も考慮されており、記録する神経細胞数が増えるほど精度が向上する。

マウスの脳活動から動画を再構成、UCLが単一細胞レベルの解読に成功
画像:ucl.ac.uk

他者や動物が見ている映像を脳活動から可視化する試みは、これまで大型の fMRI(磁気共鳴機能画像法)装置を用いた研究が主流でした。しかし血流変化を手がかりにする手法では、得られる像はどうしても不鮮明な輪郭にとどまりがちでした。

今回、研究者たちはその解像度を個々の細胞レベルへと一気に引き上げました。3 月 10 日、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)セインズベリー・ウェルカム・センターの Joel Bauer 博士らの研究チームは学術誌『eLife』にて、マウスの視覚野における単一神経細胞の活動記録だけを頼りに、マウスが見ていた 10 秒間の動画を高精度に再構成することに成功したと発表しました。

単一細胞の点滅と生体状態から映像を逆算する

本研究の最大の強みは、数百万個の細胞活動を大まかに捉える fMRI ではなく、顕微鏡を用いたイメージング技術で個々の神経細胞の発火(カルシウムイオン濃度の上昇)を直接観察した点にあります。

チームは 2023 年の「Sensorium コンペティション」で開発された動的神経符号化モデルをベースに採用しました。このモデルの優れた特徴は、映像フレームに対する神経反応だけでなく、マウス自身の運動や瞳孔の散大といった生体状態も変数として組み込んでいることです。生物の視覚は単なる固定カメラではなく、覚醒度や身体の動きによって脳内の信号処理が大きく変化するからです。

復元のプロセスも極めて合理的です。アルゴリズムはまず白紙の画面からスタートし、白紙を見たときの予測神経活動と、実際に観測された神経細胞の発火データとの差分を計算します。その差を埋めるように画素を反復的に更新していくことで、マウスの脳活動と一致する映像へと近づけていきました。

学習を終えたモデルは、訓練には一切使われていない新規の 10 秒動画を見ているマウスの脳活動から、オリジナルの動きと時間的なズレがほとんどない忠実な映像を復元しました。記録に含める神経細胞の数を増やすほど、再現精度が目に見えて向上することも実証されています。

Bauer 博士は、復元された映像と元映像の食い違いは単なるアルゴリズムの失敗ではなく、脳が視覚情報を処理する過程で現実世界をどのように歪め、解釈しているかという特徴を映し出している可能性があると指摘しています。

なぜ重要か

神経科学とブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の領域において、今回の成果は重要な前進といえます。血流信号による大まかな推定から、単一細胞レベルの活動に基づいた連続動画像のデコードへと踏み込んだからです。

賢いアプローチだと評価できるのは、生成 AI に過剰な想像を委ねるのではなく、神経符号化モデルの差分勾配を用いてピクセルを厳密に調整した点です。さらに瞳孔の動きなど内部状態を反映させたことで、生きた動物のダイナミックな知覚ノイズをうまく制御できています。

一方で、この技術がすぐに人間の「思考盗撮」や夢の録画機になるわけではありません。単一細胞レベルのカルシウムイメージングは頭蓋骨にアプローチする侵襲的な手法であり、健康な人間にそのまま適用することは不可能です。また、現在の復元時間も 10 秒が限界で、解像度や視野のカバー範囲にも改善の余地が残されています。

私たちは、この成果の最大の価値は映像生成ツールそのものではなく、主観的な認識の測定器を手に入れた点にあると考えています。客観的な現実と、脳が頭の中で作り上げている主観的な映像とのギャップを定量化することで、生物の知覚メカニズムの解明だけでなく、より効率的な類脳型コンピュータビジョンの開発にも新たな視座をもたらすはずです。

情報源 (1)

  1. [1]
    ucl.ac.uk(新しいタブで開きます)原文ucl.ac.uk

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