映画『Here』でトム・ハンクスをリアルタイム若返り、AI企業Metaphysicが技術提供
AI企業のMetaphysicは、ロバート・ゼメキス監督の新作映画『Here』で、新ツール「Metaphysic Live」を用いてトム・ハンクスやロビン・ライトらの若返りや顔の差し替えを行うと発表した。撮影現場で追加の合成処理なしに高解像度の若返り映像をリアルタイム生成できるという。

映画監督のロバート・ゼメキスが、またしても最先端テクノロジーを引っ提げて撮影現場の常識を覆そうとしています。
同監督の新作映画『Here』(ミラマックス製作、ソニー・ピクチャーズが2024年米公開予定)において、主演のトム・ハンクスとロビン・ライトの若返り(ディエイジング)に、生成AI企業Metaphysicの新ツール「Metaphysic Live」が全面的に導入されることが明らかになりました。リチャード・マクガイアの同名グラフィックノベルを原作とする本作は、ひとつの部屋を舞台に、長い年月をかけて移り変わる住人たちの人生を描く挑戦的な作品です。
現場で自分の若返り姿を確認できる「青春の鏡」
Metaphysicといえば、SNSで大きな話題を呼んだ「@DeepTomCruise」や、オーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』で見せた超高精度のディープフェイク技術で知られる企業です。
今回投入されるMetaphysic Liveは、撮影中の俳優の演技に対して、リアルタイムで高解像度かつ写実的なフェイストランスファーや若返り処理を施すツールです。同社によれば、後工程での複雑な合成作業やVFX処理を必要としない水準に達しているといいます。
本作のVFXスーパーバイザーであるケヴィン・ベイリー氏は、この技術を現場の「青春の鏡」と表現しています。俳優たちはモニター越しにリアルタイムで若返った自分の姿を確認し、それに合わせて即座に演技プランを微調整できる仕組みです。
さらに同社は、ハリウッドの大手タレントエージェンシーCAAとの戦略的提携も発表しました。所属クリエイター向けに生成AIツールやサービスを共同開発し、俳優が自身の肖像データを自ら管理・保持できる倫理的な枠組み作りを進める方針です。
なぜ重要か
映画制作におけるディエイジングのあり方が、根本から変わろうとしています。
従来のデジタル若返りといえば、『アイリッシュマン』のように膨大な予算と数カ月におよぶポストプロダクションを費やすのが通例でした。俳優にとっても、顔にトラッキング用のマーカーを無数につけ、完成画面を想像しながら演じるしかなかったのが実情です。現場で即座に完成形に近い映像がプレビューできるなら、演技の質も制作スピードも次元が変わります。
業界全体への影響も見逃せません。もし現場のリアルタイムAI処理が本当に劇場公開クオリティに耐えうるものなら、既存のVFXスタジオが請け負ってきた巨大なポストプロダクション業務のパイが直接脅かされることになります。
また、MetaphysicがCAAと手を組んだ動きは非常にスマートです。ハリウッドでは肖像権やAIによる仕事の代替に対する警戒感が急速に高まっています。その中で「タレント自身のデータ主権を守る」という看板を掲げ、エージェンシー側と共闘体制を築くことで、労働組合や業界内の反発を先回りして抑え込もうとしているように見えます。
課題があるとすれば、映画館の大スクリーンに耐えうるディテールです。現場のモニターで完璧に見えても、巨大スクリーンで観客を惹きつけるだけの細やかな皮膚の質感や目の輝きをAIだけで維持できるのか、真の評価は公開を待つ必要があります。
情報源 (1)
- hollywoodreporter.com(新しいタブで開きます)原文hollywoodreporter.com