Insilico、生成AIで見つけた肺線維症の新薬候補が第2相臨床試験入り
Insilico Medicineは生成AIを活用して発見・設計した特発性肺線維症の治療薬候補が第2相臨床試験に入ったと発表した。標的特定から分子生成までAIを用い、従来の10分の1の費用と3分の1の期間で開発を進めた。米中両国の患者を対象に試験が実施される。

新薬開発には長年、10年以上の歳月と巨額の資金を投じても大半が失敗に終わるという厳しい現実がつきまとってきました。しかし、生成AIがその常識を覆しつつあります。
NVIDIAは、創薬ベンチャーのInsilico Medicine(インシリコ・メディシン)が全工程で生成AIを活用して設計した新薬候補が、特発性肺線維症を対象とする第2相臨床試験(フェーズ2)に入ったことを明らかにしました。
特発性肺線維症は、肺機能が不可逆的に低下していく難治性の呼吸器疾患です。2015年からディープラーニング創薬に賭けてきた同社にとって、今回の進展は初期の先行投資が本格的な実用化段階に入ったことを示しています。
4億ドルの工程を3分の1の期間と10分の1の費用で
従来の創薬手法では、標的の探索から前臨床試験を終えるまでに通常6年の年月と4億ドルを超える膨大な研究費がかかっていました。
これに対し、Insilicoは生成AIを活用することで、従来の10分の1の費用、かつ3分の1の期間で前臨床工程を完遂しました。プロジェクト開始からわずか2年半で第1相臨床試験へ進んでいます。
特に目覚ましいのは、疾患の標的分子を特定してから臨床試験候補を選定するまでの期間が18カ月未満だった点です。
通常なら数千から数万もの化合物を実際に合成してスクリーニングを行う必要がありますが、同社はAI創薬基盤「Pharma.AI」を用い、わずか80個程度の分子を設計・合成しただけで有望な候補薬を絞り込みました。
生物学と化学をAIで直結させる強み
多くの創薬AI企業は、標的タンパク質を探す生物学側か、化合物を設計する化学側のどちらか一方に特化する傾向があります。
Insilicoのアプローチは、その両方をエンドツーエンドで統合している点に特徴があります。まず「PandaOmics」で病気の進行に関わる標的を特定し、続いて分子設計エンジン「Chemistry42」が、その標的に結合する新しい小分子構造をわずか数日でゼロから生成します。
NVIDIAのTensor Core GPUやBioNeMoを活用する同社は、現在、米国と中国で数百人の患者を対象にフェーズ2試験を実施しています。パイプラインにはがん治療薬など30以上の開発プロジェクトが並行して控えています。
なぜ重要か
私たちは、このニュースが「AI創薬の真価がシミュレーションの枠を飛び越え、現実の生体で問われる極めて重要な転換点」だと考えています。
これまで製薬業界には、AIが画面上でどれほど美しい分子を導き出しても、実際の生体内では機能しないのではないかという根強い懐疑論がありました。標的の同定から分子生成までAIで行った候補薬がフェーズ2に進み、数百人規模の患者で有効性を検証する段階に至ったこと自体が、業界全体にとって前例のないマイルストーンです。
わずか80分子の合成で臨床候補に辿り着いたという極めて高い的中率は、従来のローラー作戦的な実験手法の非効率さを浮き彫りにしています。大手製薬企業にとっても、自社の研究開発パイプラインに生成AIを全面的に組み込む強い圧力となるはずです。
ただし、最大の難所はここからです。フェーズ2は多くの候補薬が脱落する「死の谷」と呼ばれています。AIがどれほど結合親和性を高く予測できていても、複雑な人体における実際の治療効果や長期的な安全性は試してみるまで分かりません。この薬が実際に患者の呼吸機能を改善できるかどうかが、生成AI創薬というジャンル全体の未来を左右することになります。
情報源 (1)
- blogs.nvidia.com(新しいタブで開きます)原文blogs.nvidia.com