Iambicが「Enchant」発表:創薬の初期段階からヒト臨床結果を予測
Iambic Therapeuticsは創薬の初期段階から薬剤候補の体内動態を予測するマルチモーダルモデル「Enchant」を発表した。豊富な前臨床データと少量の臨床データを組み合わせて学習し、半減期の予測精度で従来を上回る新記録を達成。前臨床開発期間を数年短縮し、臨床試験の失敗リスクを抑える狙いがある。

新薬開発には数十億ドルの費用がかかると言われますが、その最大の要因は、人体でどう作用するかという致命的な問題が、莫大な費用を投じた臨床試験の段階になるまで見抜けないことにあります。
サンディエゴのバイオテック企業 Iambic Therapeutics は、2024 年 10 月 29 日、創薬の最初期段階からヒトでの臨床結果を予測するマルチモーダル Transformer モデル「Enchant」を発表しました。
5 分子のデータから臨床動態を予測
新薬の開発現場では、研究室で得られる前臨床データは豊富にある一方で、ヒトを対象とした臨床試験データは非常に限られているという「データの壁」が常に存在していました。
Enchant は、様々な段階で生成される形式の異なるデータや品質にばらつきがある公開データを、トークンと呼ばれる学習単位に標準化・整形して取り込みます。
公開されたホワイトペーパーによると、Enchant は代表的な薬物動態データセットである「Obach」の 1% 未満、わずか 5 つの分子データしか使わない条件下でも、前臨床データを補完材料にすることで実用的な予測精度を示しました。
さらに Obach データセット全体を用いた学習では、ヒト体内での血中濃度半減期の予測においてスピアマン相関係数 0.74 を記録しました。従来の最高水準だった 0.58 を大きく上回るベンチマークです。
MIT の准教授である Connor Coley 氏は、臨床試験に入る前にヒト体内での挙動を精度高く予測できれば、創薬候補の設計や実験にかかる負担を大幅に減らせると評価しています。
なぜ重要か
AI 創薬ツールは数多く登場していますが、人体が薬物をどう吸収・代謝・排泄するかという薬物動態(PK)の予測は、依然として臨床開発における最大の脱落原因の一つです。
研究開発に携わるチームにとって、Enchant のような基盤モデルが実用化されれば、失敗する運命にある候補化合物をウェットラボやヒト試験に進む前に計算機上で早期に見切り、年単位の開発期間と莫大なコストを削減できる可能性があります。
私たちは、乏しい臨床データを豊富な実験室データで補うために、両者を共通のトークン列として Transformer に学習させたアプローチを賢明だと評価しています。データ型の壁を取り払う設計は、今後の AI 創薬における標準手法になる可能性があります。
ただし、過去の公開ベンチマークで高い相関を示したことと、未知の新規化合物で臨床成功率を高められるかは別問題です。Iambic 自身のパイプラインが実際に臨床試験を通過し、成功を証明できるかが今後の試金石となります。
情報源 (1)
- iambic.ai(新しいタブで開きます)原文iambic.ai