Googleなどが全脳活動予測ベンチマーク「ZAPBench」を発表
Google ResearchはHHMI Janeliaやハーバード大学と共同で、幼体ゼブラフィッシュの約7万個の神経細胞を捉えた全脳活動データセットと評価基准「ZAPBench」を発表した。大規模言語モデルが単語を予測するように、ニューロンの30秒後の発火パターンを予測する能力を測定するオープンソース基盤となる。
ZAPBenchは、Google ResearchがHHMI Janeliaおよびハーバード大学と共同でICLR 2025にて発表した、全脳神経活動の予測精度を競うオープンソースのベンチマークおよびデータセットだ。
大規模言語モデルが文章中の次の単語を予測するのと同じように、AIが直前の脳活動データをもとに、幼体ゼブラフィッシュの約7万個の神経細胞がその後の30秒間にどう発火するかを予測するタスクを提供する。
7万個のニューロンを丸ごと記録した仕組み
従来の神経科学におけるベンチマークは、脳のごく一部に限定されることが多かった。たとえばマウス視覚野を対象としたDynamic Sensoriumでも、脳全体の0.1%未満しかカバーしていない。しかし、周囲の危険を察知して逃げるような日常の行動は、感覚、判断、運動が脳全体で同時に連携して初めて成立する。
研究チームが対象に選んだのは、生後6日目のゼブラフィッシュの幼魚だ。この段階ですでに水流への適応や捕食といった複雑な行動ができ、何より体が小さく透明で顕微鏡観察に適している。遺伝子改変によってカルシウムイオンの流入時に発光するGCaMPを用い、ライトシート顕微鏡で脳全体をレーザー走査しながら3D画像を記録した。
実験では魚をゲル状物質で固定したうえでVR映像を投影し、明暗の変化や激しい水流など9種類の視覚刺激を与え、尾部に設置した電極で筋肉の活動もあわせて記録した。脳活動の計測は連続2時間に及ぶ。
公開データには、顕微鏡で得られた生の3Dボリュメトリック動画と、ボクセル単位のセグメンテーションによって個々の神経細胞ごとの時系列変化を抽出したデータの2種類が用意されている。
モデルは30秒先の活動をどう予測するか
ZAPBenchの評価には平均絶対誤差(MAE)が用いられ、予測した発火パターンと実際の記録との差異をスコア化する。
ベースラインモデルの検証からは、文脈となる入力映像が長いほどモデルの予測精度が向上することが分かった。また、空間的な配置情報をそのまま保持できるためか、3Dボリュメトリック動画を直接学習させたモデルが、単一ニューロンの時系列データを上回るケースも見られた。
一方で、予測ミスは特定の脳領域に集中して発生する傾向があり、部位によって予測難易度が大きく異なる実態も浮き彫りになった。現在チームは、このデータセットに物理的な神経回路マップ(コネクトーム)を紐付ける作業を進めている。
なぜ重要か
計算神経科学や時系列・空間モデリングを研究する開発者にとって、ZAPBenchは今すぐ触る価値のあるベンチマークだ。顕微鏡画像の複雑な前処理をスキップし、標準化された予測タスクとして全脳データを扱える環境が整った意義は大きい。
言語モデルのような自己回帰的予測アプローチを脊椎動物の全脳データに持ち込んだ発想は非常に実践的だ。哺乳類の脳とは規模が異なるものの、AIモデルが生物の動的な情報処理をどこまで再現できるかを測る土台として、今後のデファクトになる可能性を秘めている。
情報源 (1)
- research.google(新しいタブで開きます)原文research.google