GoogleのGemini 2.5 Proが「ポケットモンスター 青」をクリア、数百時間の激闘の末
独立系開発者のシステム支援により、GoogleのGemini 2.5 Proが『ポケットモンスター 青』の完全クリアを達成した。エミュレータ上の画面情報やメモリデータを解析し、専用のサブエージェントと連携して自律的に進行。一部の手動修正はあるものの、長期的思考とタスク計画の進展を示す事例となった。

2025年における最先端AIのベンチマークが、29年前に発売されたゲームボーイ用ソフトになると誰が予想しただろうか。
Twitchで数百時間にわたって配信された激闘の末、GoogleのGemini 2.5 Pro Experimentalが、1996年発売の不朽の名作『ポケットモンスター 青』を完全クリアした。エンディングを迎えた直後、GoogleのCEOであるSundar Pichai氏も自身のXアカウントで「なんというフィナーレだ!Gemini 2.5 Proが『ポケットモンスター 青』をクリアした!」と称賛の声を投稿した。
このプロジェクトはGoogle社内の公式研究ではなく、同社とは無関係の30歳のソフトウェアエンジニア、Joel Z氏が個人で立ち上げた実験だ。大規模言語モデル(LLM)が自律的にゲームをプレイできるよう、独自のフレームワークを構築して成し遂げた。
ポケモンを攻略するための「外付け足場」
『ポケットモンスター 青』をAIがクリアするのは極めてハードルが高い。オープンワールドに近いマップ探索、属性相性を考えたターン制バトル、さらには岩を押して解くパズルなど、クリアには長期的視点での計画性と状況把握が欠かせない。
Joel Z氏はゲームボーイエミュレータ「mGBA」をGemini 2.5 Proと接続した。単にゲーム画面を渡すだけでなく、主人公の現在地や手持ちポケモンの状態、マップデータといったメモリ(RAM)情報も直接抽出してモデルに提供。さらに空間認識を補助するため、画面にグリッド線を重ね、テキスト形式の探索マップを併用した。
Geminiはこれらの情報を読み解き、「Aボタンを押す」「下へ移動する」といったコントローラー入力を決定する。トークン数の上限を回避するため、システムは約100アクションごとにこれまでの行動履歴を自動要約する仕組みを採用した。
興味深いのはマルチエージェント連携だ。通常の移動や戦闘を行うメインのGeminiに加え、複雑なルートを割り出す「パスファインダー(Pathfinder)」や、岩押しパズルを専門に解く「ボルダー・パズル・ストラテジスト(Boulder Puzzle Strategist)」というサブエージェントを用意。これらもすべてGeminiインスタンスで構成されており、メインのモデルが状況に応じて専門エージェントを自律的に呼び出していた。
手動介入はズルなのか
当然ながら、人間のサポートがどの程度あったのかは議論の的となった。
Joel Z氏は配信上で、いくつかの手動介入を行ったことを認めている。たとえばモデルが「あなぬけのヒモ」などのアイテムを無駄遣いするのを止めたり、システムの不具合で進行不能になった際に修正を加えたりした。しかし、パズルの解き方や具体的な攻略指示といった「ネタバレ」は与えていないと強調する。唯一の例外は、ロケット団のアジトでエレベーターの鍵を入手する際、特定の団員に2回話しかけなければならないという初代特有の仕様(後のピカチュウ版で修正された不具合)を教えたことだけだったという。
今年2月にはAnthropicが『ポケットモンスター 赤』をプレイするClaudeの成果を発表しており、Google AI StudioのプロダクトリードであるLogan Kilpatrick氏が「Geminiはすでにバッジを5個獲得している」と張り合ったり、Pichai氏が「API(Artificial Pokémon Intelligence)を開発中だ」と冗談を飛ばす場面もあった。ただしJoel Z氏は、モデルごとに与えられているツールや情報環境が全く異なるため、これをLLM同士の優劣を決める直接的なベンチマークとして見るべきではないと呼びかけている。
なぜ重要か
レトロゲームのクリアというキャッチーな話題だが、その本質は「AIエージェントの極めて実践的な運用モデル」を示した点にある。
私たちは、このプロジェクトのシステム設計が非常に巧妙だと評価している。Gemini単体に完璧な空間認識や記憶力を求めるのではなく、RAMデータの注入、画面グリッド、定期的な記憶の要約、そして専門サブエージェントへのタスク委譲といった「足場」を外部から組み上げた。これは現在のエンタープライズ領域で実用的な自律エージェントを構築する手法と全く同じだ。
開発者にとっても得られる示唆は大きい。複雑なGUI操作や長時間のワークフローを自動化する際、単一の巨大モデルに丸投げするのではなく、指揮役と専門役を分担させるアーキテクチャが極めて有効だとわかる。
もちろん、手厚い補助ツールや人間の適度な見守りがなければ、モデルはいまだに袋小路で行き詰まってしまうという限界も浮き彫りになった。汎用人工知能(AGI)への到達とは言えないまでも、推論モデルが環境と対話しながら数日間に及ぶ超長期タスクをやり遂げたという事実は、今後のエージェント開発にとって確かな前進と言える。
情報源 (3)
- @sundarpichai(新しいタブで開きます)原文x.com
- the-decoder.com(新しいタブで開きます)報道the-decoder.com
- techcrunch.com(新しいタブで開きます)報道techcrunch.com