世界2位のスパコン「Frontier」、史上最大規模の宇宙シミュレーションを実施
米オークリッジ国立研究所のスパコン「Frontier」が、約9,000基のAMD製ノードを活用し、史上最大規模かつ最も複雑な宇宙シミュレーションを完了した。重力だけでなく暗黒物質やガスの流動も反映し、従来のベンチマークより約300倍高速に動作したという。

観測可能な宇宙全体をコンピューターの中で再現しようとすると、天文学的な計算量が壁になります。
これまでの宇宙シミュレーションは計算能力の制約から、重力の影響だけを計算するなど、大幅な単純化を余儀なくされていました。しかし現実の宇宙では、暗黒物質やガスの流動、プラズマ、そして宇宙自体の膨張が複雑に絡み合っています。
世界第2位の処理性能を持つスーパーコンピューター「Frontier」が、暗黒物質と流体力学を組み込んだ、史上最大かつ最も複雑な宇宙シミュレーションを実行しました。
9000ノードを投入、想定を大幅に超える300倍の高速化
米オークリッジ国立研究所(ORNL)に設置されているFrontierは、1.4エクサFLOPSの演算性能を誇るエクサスケールマシンです。
2024年11月に実施された今回のシミュレーションでは、AMDのGPU「Instinct MI250X」を搭載した約9000台の計算ノードが動員されました。
使用されたソフトウェアは、米エネルギー省(DOE)が18億ドルを投じたエクサスケール・コンピューティング・プロジェクトの一環である「HACC(Hardware/Hybrid Accelerated Cosmology Code)」です。開発チームはFrontierのような次世代スパコン向けに、約7年の歳月をかけてコードの最適化を続けてきました。
当初の目標は従来比50倍の高速化でしたが、実際のテストでは土星の衛星タイタンを対象とした類似シミュレーションと比較して、約300倍という驚異的な実行速度を記録しました。
重力だけでなく流体力学と暗黒物質も網羅
今回の成果で注目すべきは、計算負荷が極めて高い「流体力学宇宙論シミュレーション」をこの規模で成立させた点です。
従来のモデルは重力計算が中心でしたが、今回は宇宙の膨張、暗黒物質の影響、ガスやプラズマの物理的な動きを統合して再現しています。
Frontierは宇宙科学だけでなく、多様な先端研究で実績を重ねています。2023年4月には、地球規模の気候データを3キロメートル以上の高解像度で1年分シミュレートする気候モデル「SCREAM」を稼働させました。さらに分子レベルでの材料開発や創薬研究にも貢献しています。
なぜ重要か
天文学や宇宙物理学の研究者にとって、観測データと理論を結ぶ強力な実験基盤が整ったことを意味します。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などから送られてくる観測結果に対し、暗黒物質や銀河形成の理論が正しいかを高精度な仮想宇宙の中で直接突き合わせることが可能になります。
ハードウェアの観点では、AMDの技術力を証明する重要なマイルストーンとなりました。
AIブームではNVIDIAの存在感が際立っていますが、Frontierが9000ノード規模の過酷な科学計算を安定して完走させたことで、Instinctシリーズの信頼性が実証されたと言えます。
私たちは、このエクサスケール基盤が今後の科学AI(AI for Science)の進化を一段と加速させると考えています。膨大な物理シミュレーションデータの生成は、次世代の科学特化型基底モデルの訓練に直結するからです。一方で、これほどの計算リソースを維持・運用できる機関は世界でも極めて限られており、計算格差の広がりは無視できない課題です。
情報源 (1)
- livescience.com(新しいタブで開きます)原文livescience.com