EvolutionaryScaleが生物基盤モデル「ESM3」を発表、5億年分の進化を模倣
EvolutionaryScaleは980億パラメータの生物学向け言語モデル「ESM3」を発表した。タンパク質の配列・構造・機能を統合的に推論・生成でき、自然界との類似度が58%の新蛍光タンパク質の設計に成功した。Forgeを通じてAPIのパブリックベータ版を提供している。

自然界が試行錯誤を繰り返し、新たな蛍光タンパク質を進化させるのにかかる時間は約5億年。もしそれをコンピューター上のプロンプト1つでシミュレートできるとしたらどうでしょうか。
元Meta AIのタンパク質研究チームが立ち上げたEvolutionaryScaleは、生物学向けの大規模生成モデル「ESM3」を発表しました。980億パラメータ、1x10^24 FLOPS以上の計算リソースを投じて訓練されたこのモデルは、タンパク質の「配列」「立体構造」「機能」という3つの基本要素を同時に推論する世界初のネイティブ・マルチモーダルモデルです。その実力を示すデモとして生成された新たな緑色蛍光タンパク質「esmGFP」は、既知の最も近い天然蛍光タンパク質と配列が58%しか一致していません。進化の多様化速度から逆算すると、これは約5億年分の自然進化を一気にシミュレーションしたことに相当します。
3次元の立体構造を「文字」にして穴埋め学習させる
従来の生物向けAIは、配列を扱うものと立体構造を予測するものが分断されていました。ESM3の最大の技術的ブレークスルーは、3次元構造や機能を独自の語彙として離散化し、テキストのトークンと同じ形式に落とし込んだ点にあります。
学習には、自然言語処理でおなじみのマスク言語モデリングを採用しました。配列、構造、機能の一部を隠し、モデルにその空白を推論させます。世界中の多様な環境から集められた数十億のタンパク質データに加え、不足しがちな実験構造データを補うために数億件の合成データを追加。さらに、LLMのRLHFに似たアライメント手法を取り入れ、モデル自身が生成物の品質をフィードバックして自己改善する仕組みも組み込まれています。
プロンプトで生物を「プログラミング」する時代へ
3つの要素が1つのモデルで統合されたことで、研究者はまるでコードを書くようにプロンプトでタンパク質を設計できるようになりました。
例えば、プラスチック廃棄物(PET)を分解する酵素「PETase」の設計では、活性部位の構造と特定のアミノ酸、そして加水分解酵素という機能キーワードをプロンプトとして同時に与えることで、条件を満たす足場タンパク質の生成に成功しています。配列上は遠く離れていても立体構造上は近接していなければならない原子を高精度に配置する能力は、モデルの規模を拡大したことで初めて創発したとしています。
なぜ重要か
私たちは、ESM3の登場によって創薬や合成生物学が「既知の配列を探す時代」から「要件定義してゼロから作る時代」へ完全にシフトしたと考えます。
研究者やバイオテック企業にとって、自然界に存在しないタンパク質をピンポイントで設計できる価値は計り知れません。特に環境浄化のための新規酵素開発や、難治性疾患に対する抗体創薬に関わるチームなら、Forgeを通じたパブリックベータを試さない手はないでしょう。これまで何年もかかっていた実験室での指向性進化スクリーニングを、大幅にスキップできる可能性があります。
業界全体にとっても、AlphaFoldなどが牽引してきた「構造予測」の競争軸が、一気に「多機能な条件付き生成」へと塗り替えられる契機になります。Google DeepMindなどのライバルも追随を余儀なくされるはずです。
ただし、課題も明白です。画面上で画期的な分子をどれだけ生成できても、それを実際に合成し、実験室で意図通りに機能するかを検証するウェットラボの工程は依然として時間がかかります。また、生命のコードを自在に設計できる能力はバイオセキュリティ上の重大な懸念とも直結するため、責任ある開発と利用制限の枠組みが機能するかどうかも厳しく問われることになります。
情報源 (1)
- evolutionaryscale.ai(新しいタブで開きます)原文evolutionaryscale.ai