DeepMindが古代碑文AI「Aeneas」発表、文字復元や年代推定を支援
DeepMindなどの研究チームが『Nature』誌で多模態AI「Aeneas」を発表した。破損した古代ラテン語碑文の任意長の欠損復元、年代推定、出土地特定の3大課題に対応する。歴史学者がAeneasと協働することで確信度が44%向上し、人間の専門家単独やAI単体を上回る成果を挙げた。

古代ローマの石碑や青銅板を読み解く作業は、長年、学者の並外れた記憶力と文献調査に依存してきました。欠損した文字を補うためだけに、類似した言い回しを持つ別の銘文を図書館で何カ月も探すことも珍しくありません。
Google DeepMind は英ノッティンガム大学、オックスフォード大学、ウォーリック大学、アテネ経済商業大学と共同で、古代ラテン語銘文を文脈化・復元するマルチモーダル生成 AI「Aeneas(アイネイアス)」を開発し、学術誌 Nature に論文を発表しました。
欠損文字の長さが不明でも復元可能に
現在でも毎年約 1500 点のラテン語銘文が新たに発見されています。しかし風化や破壊で文章が途切れていたり、独特の略記が多用されていたりするため、従来の単純な文字列検索では歯が立ちませんでした。
研究チームはローマやハイデルベルクなどの主要な銘文データベースを統合し、紀元前 7 世紀から紀元後 8 世紀にわたる 17 万 6861 点の銘文をまとめたデータセット「LED」を構築しました。
Aeneas の大きな強みは 2 つあります。1 つは、欠落している文字数がわからない場合でも復元できる「任意長復元」を古代語モデルとして初めて実現した点です。従来の AI は欠けた文字数が判明している穴埋めしかできませんでした。
もう 1 つはテキストだけでなく石碑の画像も処理するマルチモーダル設計です。文章の内容と遺物の視覚的特徴を組み合わせることで、その銘文がどの地域で刻まれたものかを高精度に特定します。銘文の特徴を一種の歴史的指紋としてベクトル化し、関連する平行テキストを瞬時に提示します。
人間と AI の協働が単独作業を上回る
歴史学者による検証では、Aeneas が提示した類似文献の 90% が研究の足がかりとして有用だと評価され、研究者の作業確信度が 44% 向上しました。
年代測定では、確定している年代範囲から平均 13 年以内の誤差という高精度を記録しました。文字の復元や出土地の特定においても、専門家が Aeneas と協働した結果が、人間単独や AI 単独の精度を明確に上回りました。
研究チームはコードと LED データセットをオープンソース化し、ウェブサイト(predictingthepast.com)で研究者や教育者向けの無料ツールを公開しています。
なぜ重要か
歴史学者や碑文研究者、博物館関係者にとって、Aeneas は膨大な文献照合作業を一瞬で肩代わりしてくれる実用的なパートナーになります。地中海全域に散らばる何万もの碑文から類似例を探し出す手間が省けるため、これまで放置されがちだった断片的な史料の解読が大きく前進するはずです。
AI の設計思想としても、非常に賢明なアプローチだと私たちは考えます。歴史の分野で一般的な生成 AI を使うと事実の捏造が問題になりますが、Aeneas は勝手に文章を創作するのではなく、現存する「平行テキスト」を根拠として提示することに主眼を置いています。最終的な歴史解釈を人間に委ねる道具立てになっているため、学術研究の現場でも安心して受け入れられやすいと言えます。
一方で課題もあります。学習データのうち画像が揃っている銘文はまだ 5% 程度にとどまっており、画像を活用した地域推定の精度には向上の余地が残されています。また、出土史料そのものが帝国の中心部に偏っているバイアスも無視できません。それでも、人文科学と先端 AI がどのように補完し合うべきかを示す、極めて完成度の高い実例と言えます。
情報源 (2)
- nature.com(新しいタブで開きます)原文nature.com
- deepmind.google(新しいタブで開きます)報道deepmind.google