ダートマス大のAIセラピー「Therabot」、うつ症状が51%改善
ダートマス大学がの『NEJM AI』で、生成AIセラピーボット「Therabot」の初となる臨床試験結果を発表した。うつ病患者の症状が平均51%、不安症状が31%軽減し、対面治療に匹敵する効果を示した。患者との信頼関係も構築されたが、研究チームは安全のため医師の監督が不可欠だと指摘している。

深夜に強い不安に襲われたり気分の落ち込みに悩まされたりしたとき、カウンセラーの予約を取ろうにも数週間から数か月待たされるのが日常茶飯事です。そうした中、生成AIとのチャットが本物の治療と同じような効果をもたらすかどうかの検証が進んでいます。
ダートマス大学の研究チームは、生成AIを活用したメンタルヘルス治療チャットボット「Therabot」の臨床試験結果を医学誌「NEJM AI」に発表しました。生成AIセラピストを対象としたランダム化比較試験としては世界初となる取り組みです。
6時間の対話でうつ症状が半減
試験は、大うつ病性障害、全般性不安障害、摂食障害のいずれかの診断を受けた全米の患者106人を対象に実施されました。また、比較のために同じ診断を持つ104人の対照群も追跡しています。重要なのは、Therabotを利用したグループの約75%が当時、投薬や対面カウンセリングなどの治療を受けていなかった点です。
参加者はスマートフォンアプリを通じてTherabotと対話しました。8週間の試験期間中、患者が費やした対話時間の平均はわずか約6時間で、これは従来の対面診療およそ8回分に相当します。
得られたデータは研究チームの予想を上回るものでした。うつ病患者の症状は平均51%軽減し、臨床的にも明らかな気分の改善が確認されました。全般性不安障害の患者も症状が平均31%軽減し、多くが中等度から軽度へ、あるいは診断基準を下回るレベルまで回復しました。治療が難しいとされる摂食障害のリスク層においても、体型や体重に対する懸念が平均19%低下し、対照群を大きく引き離しました。
「批判されない」からこそ深夜に打ち明けられる
症状の改善だけでなく、心理療法で成否の鍵を握る「治療同盟」、つまり患者とセラピストの信頼関係の強さにおいても、人間の医師と同等のスコアを記録しました。
データの分析からは、深夜など精神的に最も脆くなる時間帯に対話が急増していることが分かりました。参加者は単にAIからの問いかけに答えるだけでなく、自ら進んで悩みを打ち明けていました。
研究を率いたニコラス・ジェイコブソン准教授は、患者がAIを友人のように捉え始めていると指摘します。人間相手ではないからこそ「評価されたり批判されたりしない」という心理的安心感が生まれ、本音を話しやすくなったと見られます。
Therabotは2019年から精神科医らと共同開発されてきたアプリで、認知行動療法(CBT)などの科学的根拠に基づいたプロンプト設計が施されています。自殺企図などの危険な発言を検知した場合は、画面上に緊急通報やホットラインへの発信ボタンを即座に表示し、研究チームがいつでも介入できる体制を敷いていました。
なぜ重要か
メンタルヘルス領域における最大の課題は、圧倒的な医療従事者不足です。米国では、うつ病や不安障害の患者約1600人に対して専門医が1人しか存在しないと試算されています。治療を受けたくても費用面やアクセスの問題で放置せざるを得ない人々にとって、日常的に使える臨床検証済みのAIツールは極めて大きな救いになります。
私たちは、ダートマス大学のアプローチを非常に堅実で賢明だと評価しています。最初から医師の完全な代替を目指すのではなく、診療時間の外側にある空白を埋める日常のサポート役として位置づけ、何より厳格な臨床試験を通して効果を実証したからです。
一方で、生成AIを医療現場に導入する危うさも依然として残ります。共同執筆者のマイケル・ハインツ氏が指摘するように、自由な対話ができる強みは、裏を返せば「患者が何を言っても、AIが何を返してしまうか分からない」というリスクと背中合わせです。事前に90%以上の応答が適切であると確認されていたとしても、精神的危機にある患者に対するわずかな誤答は重大な事故につながりかねません。私たちは、この技術が医療アクセスの格差を埋める有望な手段であると考える一方で、人間の医療専門職による常時監視体制がないまま完全自動で運用することは、現時点では極めて危険だと考えています。
情報源 (1)
- home.dartmouth.edu(新しいタブで開きます)原文home.dartmouth.edu