Cortical Labsが生体コンピュータ15台を接続、ヒト神経細胞がAIを凌駕
Cortical Labsは生きたヒト神経細胞を搭載した生体コンピュータ「CL1」15台を連携させるシステム「HIVE」を発表した。仮想ナビゲーション試験では従来の深層Q学習(32%)を大きく超える約70%のスコアを記録。細胞同士の協調により生体特有の性能ムラを克服し、実用的なウェットウェア計算の道を開いた。

もしパソコンの中に、培養液に浸かった生きたヒトの脳細胞が入っていたら、誰もが「細胞の機嫌が悪かったらどうするのか」と不安になるはずです。
豪州のスタートアップ Cortical Labs が出した答えは明快でした。1つの培養組織が不調なら、15台まとめて束ねてしまえばいいという発想です。
ワシントンD.C.で開催された第1回オルガノイド知能国際会議で、同社は生体コンピュータ15台を接続した協調システム「HIVE」を発表しました。
集団になった神経細胞、深層強化学習を圧倒
接続されたのは、同社が商用展開している生体コンピュータ「CL1」です。各ユニットには生命維持システムが組み込まれ、シリコンチップ上で約100万個の生きたヒト神経細胞が維持されています。
単体で動かす場合、生体特有のムラがありました。仮想グリッド内を進むナビゲーション試験では、単体の最高スコアが40%にとどまりました。従来のAIアルゴリズムである深層Qネットワーク(DQN)の32%よりは優秀ですが、実用には波があります。
ところが15台をHIVEとして連携させたところ、スコアは約70%へと跳ね上がりました。さらに特定の役割を担うグループに分担させると、成果は約80%に達しました。
記号認識テストでも、7台を連携させるだけで認識精度が単体の約80%から99%まで急上昇しました。
驚くべきは、研究者が協調動作を教え込んだわけではない点です。ネットワークで結ばれた細胞群は、自発的にタスクの異なる要素を分担し、最も効率的な経路を探り当てました。
「生体ゆえの不安定さ」を群知能で克服する
ウェットウェア計算における最大の弱点は再現性の低さでした。同社の研究者ジョンソン・チョウ氏が語るように、生きた細胞はある日絶好調でも、次の日には反応が鈍くなることがあります。
しかし自然界は、個々の細胞を完璧にすることでなく、分散協調によってこの問題を解決してきました。人間の脳が領域ごとに分業し、蜂の巣が分業制で成り立つ構造と同じです。
15台を相互接続することで、1つのユニットが応答を停止したり調子を落としたりしても、他のユニットが即座にカバーできるようになりました。
従来の強化学習に比べ、サンプル効率の高さと障害耐性は圧倒的です。膨大なデータと電力を食いつぶすことなく、最小限の試行回数で環境に適応していきます。
なぜ重要か
私たちは、HIVEがバイオコンピューティングを「研究室のデモ」から「分散コンピューティング基盤」へと押し上げる重要な一歩だと考えています。
現代のAI業界は深刻な電力不足と発熱の壁に直面しています。人間の脳がわずか20ワット前後で高度な処理をこなす事実を考えれば、生体コンピュータが安定性とスケーラビリティを獲得した際のインパクトは計り知れません。
もっとも、一般の開発者がすぐに導入できる段階ではありません。CL1は商用ハードウェアとして出荷されているとはいえ、細胞を延命させる培養液の管理や滅菌環境の維持には高度な専門設備が不可欠です。
また、今回の検証で比較対象となったのは比較的古いDQNであり、タスク自体も限定的な実験室レベルにとどまります。ユニット間でどのように信号やフィードバックが行き交っているのか、完全な解明はこれからです。
それでも、生きた神経細胞同士を物理的に束ねることで、ばらつきを抑えながら計算能力をスケールさせられると実証した意義は非常に大きいと言えます。
情報源 (1)
- newatlas.com(新しいタブで開きます)原文newatlas.com