Claude Mythosが暗号を解読:耐量子署名HAWKの鍵強度を半減
AnthropicはClaude Mythos Previewを用いて暗号アルゴリズムの数学的欠陥を発見したと発表しました。米NISTの耐量子署名候補「HAWK」を約60時間の自律的検証で解析し、実効鍵強度を半減させたほか、ラウンド縮小版AESへの攻撃も最大800倍高速化しました。現行の本番環境には影響しませんが、AIによる暗号検証の進展を示しています。

暗号解読といえば、これまではプログラマーの実装ミスやバグを突くのが定番でした。しかし今や、AIは暗号の土台である「純粋な数学理論」そのものにメスを入れ始めています。
Anthropicは、研究開発中のClaude Mythos Previewを用いて、暗号アルゴリズムの数学的弱点を2つ発見したと発表しました。対象となったのは、米国立標準技術研究所(NIST)が選定を進める耐量子署名候補「HAWK」と、世界中で使われている共通鍵暗号AESのラウンド削減版です。
60時間と10万ドルで暗号強度を半減
HAWKは、将来の量子コンピューターでも破られない暗号として設計され、世界トップクラスの暗号学者による2年以上の精査を経て、NISTの第3ラウンド候補に残っていました。
Anthropicはこの検証にあたり、格子暗号の専門家ではない理論計算機科学の研究者1名とClaudeをペアにしました。PythonやSageなどの計算ツールを与えられた複数のエージェントが自律的に論文を読み、推論を進める体制です。途中で片方のエージェントが見込み薄と判断して捨てかけたアイデアを、もう一方のエージェントが拾い上げて攻略法を確立するという、人間顔負けの連携劇も見られました。
結果として、作業開始からわずか60時間、API利用料にして約10万ドルで、HAWKが用いる格子内の未知の対称性(自同構)を発見しました。これにより、例えばHAWK-256の解読に必要な計算量は従来の2の64乗から2の38乗へと激減し、有効な鍵強度は実質半分に削られました。元の安全性を保つには鍵長を2倍にする必要がありますが、それではHAWKの最大の魅力であった軽量性が損なわれてしまいます。
さらにAESの実験では、人間の介入なしの完全自律環境で、攻撃に必要な推測手順を1つ排除し、攻撃速度を従来の200〜800倍に跳ね上げました。こちらも約10万ドルの費用がかかっています。Anthropicは研究の進展を後押しするため、チューリッヒ工科大学やテルアビブ大学、ベルリン工科大学と共同で評価基盤「CryptanalysisBench」を公開しました。
なぜ重要か
まず前提として、一般ユーザーの通信や銀行口座が今すぐ脅かされるわけではありません。HAWKはまだ実用化前の候補段階であり、AESへの攻撃もラウンド数を減らした研究用モデルに限られているためです。Anthropicも6月時点でHAWKの設計者やNISTへ事前報告を行っており、手順はきわめて慎重です。
私たちが注目すべきなのは、暗号解読のスピード感が劇的に変わったという事実です。暗号規格の策定には通常、世界中の数学者が5〜10年かけて手作業で欠陥を探し出します。それを、専門外の研究者が率いるAIがわずか数日で覆してしまったインパクトは計り知れません。
今後は、自前の暗号プロトコルを公開する前に「高度なAIで徹底的にストレステストをかけたか」が標準的な作法になっていくはずです。設計段階の欠陥を前もって潰せるという意味では極めて心強い進歩ですが、裏を返せば、10万ドルの計算コストさえ払えば国家や悪意ある組織も同じ手法で暗号の盲点を突ける世界に入ったことを意味しています。
情報源 (1)
- anthropic.com(新しいタブで開きます)原文anthropic.com