Biohub、タンパク質世界モデル「ESM」を公開 抗体設計を数日に短縮
Biohub はタンパク質生物学の世界モデル「ESM」を公開した。構造予測・設計ツール「ESMFold2」、28 億配列で学習した「ESMC」、11 億の予測構造を収めた「ESM Atlas」で構成される。ESMFold2 は初期バインダー探索を数か月から数日に短縮し、がんや免疫関連の 5 つの標的でウェットラボによる結合検証にも成功した。

ESM は、Biohub が無償公開したタンパク質生物学の「世界モデル」スイートです。タンパク質の立体構造予測から、目的の標的に結合する人工バインダーや一本鎖抗体のゼロからの設計までをコンピュータ上で完結させます。従来ウェットラボで数か月かかっていた初期スクリーニングを、わずか数日の計算処理に圧縮します。
システムは主に 3 つの要素で構成されています。約 28 億の配列で事前学習した言語モデル「ESMC」、構造予測と設計を担う「ESMFold2」、そして 68 億配列と 11 億の予測構造を収録した巨大データベース「ESM Atlas」です。研究機関向けにすべて無料で提供されています。
仕組みと設計アーキテクチャ
AlphaFold のような多重配列アラインメント(MSA)に強く依存する構造モデリングとは異なり、ESMFold2 は言語モデル ESMC が獲得した生物学的表現から直接構造を導き出します。進化の過程で生み出された膨大な配列を読み解くことで、折りたたみや相互作用のルールを内生的に学習しています。
ネットワークには「ループ型 Transformer(looped transformer)」を採用しました。パラメータ数を無暗に増やすのではなく、同じ重みパラメータに表現を繰り返し通し、ループ全体を通して勾配を最適化します。ループを重ねるごとに構造の解像度を高めていく仕組みです。
この設計により、推論時にループ回数を増やすだけで計算量を難問に集中配分できるほか、限られた実験データに対する過学習を防ぐことができます。
設計速度とウェットラボでの実証結果
設計フローは 2 段階で進みます。まず ESMFold2 の表現空間を探索して数万件の候補配列を生成するのに約 2 日、続いてモデルの確信度スコアを用いて候補を評価・順位付けするのに 1 日未満しかかかりません。軽量版の ESMFold2-Fast であれば、1024 残基のタンパク質をわずか 9.4 秒で予測可能です。
Biohub は、EGFR、PD-L1、CTLA-4、CD45、PDGFRβ というがん・免疫領域の 5 つの臨床標的に対してウェットラボ検証を実施しました。小型のミニバインダー設計では 36% から 88% のヒット率を達成し、推論計算量を増やすことで平均成功率は 54% から 70% に向上しました。難度の高い一本鎖抗体(scFv)形式でも 15% から 29% のヒット率を記録しています。
特にがん細胞の免疫抑制に関わる PD-L1 に対しては、設計された scFv が 4.3 nM という治療薬水準の結合親和性を示し、細胞試験で T 細胞シグナルの抑制解除を確認しました。さらに肺がん関連の EGFR では、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)観察により、設計通りの幾何学的配置で標的に結合していることが原子レベルで証明されました。
なぜ重要か
AlphaFold が「既存のタンパク質の形状を解明した」のに対し、ESM は「自然界に存在しない新しい治療用タンパク質を設計し、それが実際に機能することを証明した」点で一歩先を行っています。クライオ電顕で結合位置が完全に一致した事実は、AI 設計の実用性を決定づける証拠です。
希少疾患の研究者や予算の限られた小規模ラボにとって、ハイスループットの物理スクリーニング設備なしに数日で初期抗体候補を見つけ出せる環境は、創薬研究の参入障壁を根底から引き下げる力を持っています。
情報源 (1)
- biohub.ai(新しいタブで開きます)原文biohub.ai