iPhone 15は生成AIをスルー:「直感的AI」で日常の使い勝手を向上
AppleはiPhone 15の発表において、世間を席巻する生成AIトレンドを追わず、日常に溶け込む機械学習機能に注力した。A17 Proを搭載し、通話の「声を分離」や自動の深度検出によるポートレート化、留守電の文字起こしなどを実現。派手なチャットボットではなく、生活の摩擦を減らす実用性を最優先している。

2023年のテック業界は、どこを見ても生成AIの話題で持ち切りです。文章を滑らかに書くチャットボットや、驚くような画像を生成するツールが新製品の主役になるのが当たり前になりました。しかし、昨日発表されたiPhone 15で、Appleはあえてその流行に乗らない選択をしました。
派手な対話型AIを披露する代わりに、Appleが前面に押し出したのは、生活の不便をそっと解消する直感的なAIでした。
日常のストレスを消す機械学習
iPhone 15に搭載された新型プロセッサA17 Proは、機械学習を高速化するNeural Engineを備えています。しかし、発表会で紹介された新機能は驚くほど控えめでした。
たとえば通話時の「声を分離」機能は、機械学習でユーザーの声を認識し、周囲の騒音だけを抑えます。カメラ機能でも、フレーム内の人物や犬、猫を自動で検知して深度情報を記録し、撮影後からポートレート写真へ変更できるようにしました。Googleのように写真から人を消す機能や、現実を加工する画像生成とは対照的に、現実の品質を高める方向に舵を切っています。
来週配信されるiOS 17にも、機械学習を活用した機能が並びます。留守番電話の音声をリアルタイムで文字起こしして出る前に内容を確認できる機能や、キーボードの予測変換の改善などです。さらにアクセシビリティ分野では、視覚障害者がカメラを電子レンジなどのボタンにかざすと指が触れている文字を読み上げる機能や、ALS患者などが15分間テキストを読み上げるだけで本人の声を再現できるパーソナルボイス機能も登場します。
「バズワード」をあえて使わない戦略
調査会社Creative StrategiesのCarolina Milanesi氏は、Appleは消費者が理解できない専門用語や流行語を使わず、実際のユーザー価値を重視していると分析します。スマートフォンの購入動機として最も大きいカメラの強化に注力する姿勢はその一例です。
一方でGartnerのアナリストTuong Nguyen氏は、スマートフォン自体の進化が頭打ちになっており、今回の発表会全体はやや控えめな印象だったと指摘します。それでも、AirPodsの適応型オーディオや、Apple Watch Series 9の人差し指と親指を合わせるダブルタップ操作のように、機械学習をインターフェースに落とし込むAppleの手腕は他社が追従する基準になり得ると評価しています。
なお、Appleが生成AIを完全に放置しているわけではありません。Bloombergは同社がAjaxと呼ばれる生成AIフレームワークを社内開発中だと報じています。Nguyen氏は、Appleもいずれ自社製品に生成AIを導入するものの、独自の見せ方ができる段階になるまでは生成AIという言葉すら使わない可能性が高いとみています。
なぜ重要か
今回のAppleのアプローチは、一見地味ですが極めて賢明だと私たちは考えています。
一般ユーザーにとって、小さな画面でチャットボットと対話する機会はまだ限られています。それよりも、電話の周囲の雑音が消える、ペットの写真が自動でボケる、文字入力のミスが減るといった改良のほうが、日々の利用体験に直結します。ユーザーにプロンプトの入力を求めず、いつの間にか恩恵を受けられる形に落とし込んでいる点は大きな強みです。
業界全体にとっても、生成AIのバズに踊らされる競合への牽制になります。ハードウェアのオンデバイス処理能力を、派手なギミックではなくOS全体の操作性向上に注ぎ込む姿勢は、モバイル体験の本質を突いています。
ただし、この静観策にはリスクもあります。競合がオンデバイスの小型言語モデルを進化させ、端末の自動操作などで大きな実用性の差をつけ始めた場合、Appleの控えめなアプローチは単なる出遅れと受け取られかねません。内部開発中とされるAjaxをどういう形で日常の体験に昇華させるのかが、今後の勝負どころになりそうです。
情報源 (2)
- 12ft.io(新しいタブで開きます)原文12ft.io
- wired.com(新しいタブで開きます)報道wired.com