Anthropic、最上位級「Claude Fable 5」発表 高リスク時はOpusへ自動切替
Anthropicは一般利用可能な新フラグシップモデル「Claude Fable 5」を発表した。ソフトウェア工学や科学研究でトップレベルの性能を発揮する一方、サイバーセキュリティなどの悪用を防ぐため、危険と判定された5%未満のプロンプトを「Opus 4.8」に自動フォールバックする安全機能を備える。
高校の生物の授業で習う「ミトコンドリアの働き」について質問しただけで、AIが回答を拒絶し、別の旧型モデルにバトンタッチしてしまう。そんな珍現象が、Anthropicの最新AIで起きています。
Anthropicは6月9日、一般向けとしては過去最高性能を誇るAIモデル「Claude Fable 5」を発表しました。あわせて、米政府と連携する「Project Glasswing」を通じてサイバー防衛組織向けに提供される「Claude Mythos 5」も展開。しかし公開直後、両モデルへのアクセスが一時停止されるトラブルに見舞われ、現在は復旧作業が進められています。
厳しすぎる安全策と「30日間の履歴保存」
Fable 5は、これまで一部の重要インフラ事業者にのみ限定公開されていた「Mythos」クラスの基盤モデルを一般向けに安全化したものです。ソフトウェア開発や視覚認識、複雑なリサーチ作業で圧倒的な性能を示します。
一方でAnthropicは、サイバー攻撃や生物兵器への悪用を過剰なまでに警戒しています。入力されたプロンプトがサイバー攻撃、生物、化学、あるいは他社モデルの蒸留に関連すると分類器が判定した場合、回答処理は自動的に前世代の「Claude Opus 4.8」へと迂回されます。この迂回はセッション全体の5%未満でしか起きないと説明されていますが、The Vergeの検証によると「細胞膜とは何か」「花粉症の原因」「mRNAワクチンの仕組み」といった無害な質問までもが軒並みブロックされたといいます。同社広報は、安全を最優先にして早期公開するため、生物学関連のフィルターを意図的に厳しく設定したと説明しています。
さらに物議を醸しているのがデータの取り扱いです。Anthropicは新手のジェイルブレイク(脱獄)を監視・防御する目的で、過去にデータ非保持契約を結んでいた企業を含め、Fable 5とMythos 5の全通信ログを30日間保持することを義務付けました。
コード移行を数カ月から1日へ短縮
安全網に引っかからない分野における実力は桁違いです。
決済大手のStripeによる先行テストでは、5000万行に及ぶRubyコードの移行作業をわずか1日で完了させました。人間のエンジニアチームなら2カ月以上かかる作業量です。また、これまでのモデルが苦戦していた『ポケットモンスター ファイアレッド』のプレイも、最低限の画像入力のみでクリアしてみせました。
科学分野向け機能を持つMythos 5では、タンパク質設計にかかる期間を約10分の1に短縮し、自律的な機械学習モデルの構築を通じて『Science』誌に掲載された既存研究を上回る成果も残しています。
利用料金は両モデルとも入力100万トークンあたり10ドル、出力100万トークンあたり50ドルと、Opus 4.8の2倍に設定されています。一般の有料プランでは6月22日まで追加料金なしで利用できますが、6月23日以降は従量課金クレジットが必要となります。
なぜ重要か
大規模なレガシーコードの刷新や、複雑な財務・データ分析を抱えている開発者や企業にとって、Fable 5は今すぐ試す価値があるモデルです。価格は従来の2倍ですが、楽天が指摘しているように、モデル自らが検証を行って手戻りを減らしてくれるなら、エンジニアの人件費と天秤にかけても十分にお釣りがきます。
しかし、手放しで歓迎できるわけではありません。30日間のログ保持が強制されるため、機密保持が絶対条件の金融機関や法務部門では導入を見送らざるを得ないケースが出てきます。また、生物・医療分野のリサーチャーにとっては、基礎的な質問すら旧モデルに回されてしまう現状は使い勝手が悪すぎます。
私たちは、超高性能モデルの手前に検閲AIを置き、危ない問いは即座に格下モデルへ逃がすというAnthropicのアプローチは、今後のフロンティアAI運用の基本形になると見ています。とはいえ、ミトコンドリアの解説すら怖がって逃げ出す状態での見切り発車は、現在のセーフガードがいかに粗削りであるかを物語っています。
情報源 (3)
- anthropic.com(新しいタブで開きます)原文anthropic.com
- techcrunch.com(新しいタブで開きます)報道techcrunch.com
- theverge.com(新しいタブで開きます)報道theverge.com