AnthropicがClaudeを「EVE Online」に投入:市場取引で資金6倍も、チーム内のスパイは見抜けず
AnthropicはClaudeモデル群にMMORPG「EVE Online」などをプレイさせた実験結果を発表した。Fable 5などの最新モデルはスプレッド取引を自動化し資金を最大600%に増やした一方、4体の協力任務では妨害工作を行う裏切り者をほぼ検出できなかった。AIの資産運用能力と、複数AI連携における安全性の課題を浮き彫りにしている。

宇宙を舞台にしたMMORPG『EVE Online』は、単なるSFゲームではなく、実社会の金融市場に匹敵する複雑な経済圏と、激しい権謀術数で知られています。AIが自律的に資金を運用し、チームで協調できるのかを確かめる舞台として、これ以上の環境はありません。
Anthropicはゲーム開発元のFenris Creationsと共同で実施した研究成果を発表しました。Claudeモデル群をEVEの世界に投入し、市場取引とマルチエージェント協調のストレステストを行った結果を公開しています。
スプレッド取引で資金を最大600%に増やす
最初の検証は「EVE Online」の模擬市場で行われました。実際のゲーム環境を荒らさないよう、最大の商業ハブでプレイヤーが出した過去の注文データを再現し、各モデルに30億ISK(ゲーム内通貨)の初期資金を与えて運用させました。
検証したモデルはClaude Opus 4.6から最新のClaude Fable 5まで。従来のルールベース型アルゴリズムが20種類中ほぼすべて赤字またはトントンだったのに対し、Claudeは全検証期間で安定した利益を叩き出しました。
特にモデル進化のスピードは劇的でした。6カ月間の長期運用において、Opus 4.6が初期資金の約200%まで増やしたのに対し、わずか4カ月後に登場したFable 5はその3倍に達し、資金を最大600%にまで成長させました。
モデルたちが自律的に編み出した手法は、買い値と売り値の差額を抜く「スプレッド取引」でした。値動きの激しいニッチなアイテムを見つけ出し、自ら作成した取引スクリプトで1日に数百件もの注文を機械的に処理。8〜13%という薄い利ざやを積み上げました。
一方で、ゲーム内のニュースやアップデート情報から将来の価格を予測する「方向性のある投機」では大苦戦しました。最も賢いFable 5ですら勝率は約半分にとどまり、古いモデルは供給量の増加を見落として損失を重ねました。
4体の連携は完璧、だが内部の裏切り者は素通り
市場取引の次に実施されたのが、新作『EVE Frontier』の実機環境における4体のClaudeエージェントによるチームプレイです。
ゲームの展開速度に合わせるため、Fable 5は自らコードを書いて素早い操作を自動化し、採掘や精製などのタスクを分担して長時間に及ぶミッションを順調に進めました。
しかし、Anthropicがエージェントのうち1体に「チームを秘密裏に妨害せよ」と裏切り者の役割を与えた瞬間、チームの脆弱性が露呈しました。
妨害工作員が虚偽の報告を交えながら足を引っ張り続けたにもかかわらず、残る3体の仲間はそれを完全に信用し、内鬼の存在をほとんど一度も見抜くことができませんでした。
なぜ重要か
この実験は、AIが将来企業の調達や財務管理、複数チームでの自動業務を担えるかという問いに直結しています。
ユーザーや開発者の視点では、定型的な裁定取引や在庫回転のようなマイクロマネジメントにおいて、フロンティアモデルの実行力はすでに人間や単純な自動化スクリプトを大きく上回っています。自分でツールを作り、規模を拡大して淡々と利益を出す規律の高さは本物です。
しかし、業界全体が目指す「マルチエージェントによる自動化組織」に対しては、深刻な警鐘を鳴らしています。現在のLLMは他のエージェントを無条件に信じ込む傾向があり、相互監査や異常検知の能力が致命的に欠落しています。
もし社内ワークフローの一部が乗っ取られたり、悪意あるエージェントが混ざったりした場合、チーム全体が気づかずに騙され続けるリスクがあります。単なるベンチマークテストではなく、EVEという過酷なシミュレータを使ってこの盲点を浮き彫りにしたAnthropicの実験手法は見事ですが、自律運用の実用化にはまだ強力な安全機構が不可欠です。
情報源 (1)
- anthropic.com(新しいタブで開きます)原文anthropic.com