Anthropic、「Claude」の化学分析能力を検証 NMR解析で専用ソフト匹敵
AnthropicはClaudeの核磁気共鳴(NMR)スペクトル解析能力を検証したホワイトペーパーを公開した。化学特化のファインチューニングなしで、Claude Opus 4.7は水素シフト予測で平均誤差±0.079 ppmを記録し、ChemDrawなどの専用ソフトと同等以上の精度を示した。スペクトルから分子構造を逆算する課題もこなしたが、検証数は20化合物にとどまる。

有機化学の実験室で、複雑なNMR(核磁気共鳴)スペクトルとにらめっこしながら頭を抱えた経験がある人は少なくないはずです。
化学構造から予想されるスペクトルを計算する専用ソフトウェアは何十年も前から存在しますが、実際のスペクトルデータから未知の構造を逆算して突き止める作業は、今なお研究者の職人技と根気に委ねられてきました。
Anthropicは、Claudeの化学解析能力向上に向けた取り組みをまとめたホワイトペーパーを公開しました。社内の化学者であるDavid Kamber氏が、Claude Opus 4.7、Opus 4.6、Sonnet 4.6の3モデルを使い、デファクトスタンダードであるChemDrawおよびMestReNovaと精度を比較検証しています。
専用ソフトを上回る予測精度
モデルが学習データを暗記してカンニングするのを防ぐため、テストにはモデルの学習期限以降にプレプリントサーバー「ChemRxiv」へ投稿された論文から、新規の20化合物が選ばれました。
SMILES記法と測定溶媒を指定して1次元NMRのピーク位置を予測させたところ、水素スペクトルにおいてOpus 4.7は平均誤差±0.079 ppmを記録し、ChemDrawとMestReNovaの双方を上回る精度を示しました。炭素スペクトルでも±1.37 ppmと、MestReNovaの±1.48 ppmとほぼ同等に並んでいます。
難関とされるクロロピリダジン誘導体のNHプロトン予測では、実測値が6.8から7.9 ppmのところ、Opus 4.7は安定してその近傍を予測しました。一方、Opus 4.6は数ppmにわたって推測がばらつき、Sonnet 4.6に至っては10から13 ppmという大きく外れた値を返しました。
さらに、隣接する原子の影響でピークが分裂する間隔の予測において、Claudeの3モデルは約80%の確率で0.5 Hz以内の誤差に収まりました。既存ソフトの正答率が26%から35%にとどまるのと比べると、明らかな差がついています。
1次元スペクトルからの構造決定
今回の成果でさらに注目すべきは、スペクトルから未知の構造を推測する「逆解析」への挑戦です。従来の自動解析ツールは高価な2次元NMR測定や専門的なトレーニングを必要としていました。
高分解能質量分析から得られる分子式と、1次元の水素・炭素NMRピークリストだけを与え、Opus 4.7に化合物の構造を推定させました。
比較的シンプルな8つの化合物では、ヒントなしで3回の試行すべてにおいて正しい構造を導き出しました。縮合環やスピロ環といった複雑な7つの化合物でも、反応の出発原料というヒントを1つ与えるだけで、4つは3回とも正解し、残り3つも3回中2回正解しました。
ただし、今回の評価は正方向で20化合物、逆解析で15化合物とサンプル数が少なく、実験室のあらゆる分子にそのまま通用すると判断するのは早計です。
なぜ重要か
私たちが注目すべきだと考えるのは、Opus 4.7が化学専用のファインチューニングを施されていない汎用モデルであるという点です。それにもかかわらず、長年研究現場で使われてきた専用ソフトウェアに匹敵、あるいは一部で上回る結果を出しました。
現場の創薬化学者や学生にとって、高額な専用解析ソフトを立ち上げたり複雑な2次元測定を行ったりしなくても、日常のチャット画面にピーク数値を貼り付けるだけで精度の高い壁打ち相手が得られる価値は絶大です。手元にある未同定のデータで今すぐ試してみる価値は十分にあります。
一方で、既存の科学ソフトウェアベンダーにとっては深刻な脅威になり得ます。専門ツールの強みだったルールベースのアルゴリズムやデータベースの壁を、フロンティアモデルの推論能力があっさりと飛び越え始めているからです。
汎用AIが科学研究の地道な解析業務をどこまで肩代わりできるかという点で、今回の検証は重要な一歩を示しています。
情報源 (1)
- anthropic.com(新しいタブで開きます)原文anthropic.com