英アストン大学がAI信号制御システムを開発:強化学習で渋滞解消へ
英アストン大学の研究チームが、深層強化学習を活用した交通制御AIを開発した。従来の固定ルールとは異なり、シミュレーション学習を通じてリアルタイムに交差点の信号機を自動制御し、未経験の道路状況にも適応して車の待機時間と排出ガスを削減する。
毎日の運転で誰もが経験するのが、交差する道路に車が一台もいないのに、赤信号の前で延々と待たされるあの無駄な時間です。
コネクテッドカー分析を手がける INRIX の調査によると、2021 年に米国人が渋滞で浪費した時間は計 34 億時間に達し、1 人あたり 36 時間を失っています。パンデミック後に移動パターンが変化したとはいえ、丸々 1 週間分の労働時間が渋滞の中に消えている計算です。
この根深い課題に対し、研究者やテック企業が AI を活用した根本的な解決に乗り出しています。
事前設定から強化学習による自律制御へ
従来の交通信号制御の多くは、交通エンジニアが事前に作成した固定プログラムやルールに依存してきました。路面のループコイルやカメラ、LiDAR を使った検知システムも存在しますが、その多くは車両のカウントや分類にとどまっています。
イスラエルの Intelligent Traffic Control や米テキサスの Paradigm Traffic Systems など、カメラ映像を解析して信号を調整する企業も登場しています。
そんな中、英アストン大学(Aston University)の研究チームはさらに一歩踏み込んだアプローチを発表しました。研究員の Maria Chli 氏と George Vogiatzis 氏が開発したのは、深層強化学習(Deep Reinforcement Learning)を活用した自律型の交通制御システムです。
同大学が「この種のものとして初」と評するこのシステムは、交通シミュレーション環境の中で試行錯誤を繰り返しながら最適な制御ロジックを自ら学習します。その結果、実際の交差点に配備された際、過去に遭遇したことのない未知の交通パターンに対してもリアルタイムで最適な信号判断を下せるようになります。
既存のインフラに重ねる「頭脳」
システムの基盤となるのは、コンピュータビジョンと強化学習の連携です。
センサーやカメラ、LiDAR が車両の速度や挙動だけでなく、歩行者や自転車などの多様な道路利用者を識別します。さらに CCTV 映像を組み合わせることで、道路網全体の動きを俯瞰的に把握します。
Chli 氏によると、強化学習モデルは人間が組んだプログラムよりもはるかに効率的に解を見つけ出し、天候や大気汚染度といった環境パラメータまで考慮した総合的な制御が可能です。
Vogiatzis 氏が指摘するように、このシステム最大の利点は、既存の車両、道路、信号機のインフラの上にそのまま導入できる点にあります。
なぜ重要か
一般のドライバーにとっての恩恵は明快です。新しい自動運転車に買い替える必要もなく、信号待ちによるストレス、燃料消費、無駄な二酸化炭素排出を直接的に削減できます。
交通管理の業界にとっても、莫大な費用がかかる路車間通信(V2X)などのハードウェア刷新を待たずに、既存の監視カメラと信号機に接続するソフトウェアのアップデートだけで渋滞緩和を図れる点は極めて現実的です。
私たちが評価したいのは、現実の道路で試行錯誤させるのではなく、シミュレータ内で徹底的に学習させてから現場に投入するという手法のスマートさです。初期のリスクを抑えつつ高い適応力を発揮できます。
ただし懸念点もあります。暴風雨やレンズの汚れでセンサーの視界が遮られた場合や、予期せぬ多重事故が発生した際、AI が人間の常識から外れた判断を下さないかというフェイルセーフの確立が、今後の実用化における最大のハードルになるはずです。
情報源 (1)
- cacm.acm.org(新しいタブで開きます)原文cacm.acm.org