本文へスキップ
IFAI

研究

AIで西暦79年のヴェスヴィオ噴火で炭化した巻物を解読、2000文字以上のギリシャ語を検出

公開 拡散指数 38

学生3人の研究チームが、西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火で炭化したパピルス巻物の高解像度CTスキャンからAIを用いて2000文字以上の古代ギリシャ語を解読し、70万ドルの大賞を獲得した。触れると崩れてしまう古文書を仮想展開してインクを検出したもので、古代史研究に大きな突破口を開いた。

AIで西暦79年のヴェスヴィオ噴火で炭化した巻物を解読、2000文字以上のギリシャ語を検出
画像:theguardian.com

西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火によって一瞬で炭化し、触れただけで粉々に崩れてしまう古代ローマのパピルス巻物。これまで200年以上にわたり解読不能とされてきた遺物が、AIの力によって未開封のまま読めるようになりました。

米国のテック投資家ナット・フリードマン氏らが立ち上げた「ヴェスヴィオ・チャレンジ」の主催者は、3人の学生からなるチームが巻物内部から2000文字以上の古代ギリシャ語の解読に成功し、大賞となる70万ドルの賞金を獲得したと発表しました。

加速器スキャンと学生たちの突貫作業

解読された巻物は、エルコラーノ(ヘルクラネウム)にあった高級ヴィラから18世紀に発掘されたものです。炭化したパピルスは真っ黒で、使われていたインクも炭素系だったため、光学的には文字の判別が不可能でした。

ブレイクスルーの土台を作ったのは、米ケンタッキー大学のブレント・シールズ教授です。英国の大型放射光施設「ダイヤモンド・ライト・ソース」で高解像度CTスキャンを実施し、炭化した層をデジタル上で平らに展開する「バーチャル・アンラッピング」技術と、インクによる微細な繊維の変化をAIで検出する手法を開発しました。

このデータをオープンにして開催されたコンテストで栄冠を手にしたのは、ドイツのユセフ・ネイダー氏、米国のルーク・ファリター氏、スイスのジュリアン・シリガー氏の3人です。ファリター氏が10月に「紫色」を意味する単語の検出で先行賞を獲得した後、年末の締め切り直前に合流したシリガー氏の自動展開アルゴリズムなどが合わさり、2000文字を超えるまとまった文章の復元に成功しました。

解読されたテキストは、エピクロス派の哲学者フィロデモスによるものとみられています。音楽や食事(特に香辛料のケイパー)に触れながら「混ざり合ったものから得られる快楽は、多い要素から生じるのか、それとも希少な要素から生じるのか」を論じ、持論を展開しないライバル哲学者を批判する内容でした。

なぜ重要か

今回の成果は、単に古代哲学の断片が1つ見つかったという話にとどまりません。

歴史学者や人文科学の研究者にとって、長年「物理的に破壊しなければ読めない」と諦められていた古代の未解読資料を、完全に非破壊で復元できる現実的なルートが確立された意味は極めて大きいです。エルコラーノの邸宅には未読の巻物が何百本も眠っているほか、世界中の博物館の収蔵庫には、エジプトのミイラを包むために再利用されたパピルスの木箱が山積みになっています。そこには古代の名著だけでなく、当時の庶民の納税記録や手紙が含まれており、古代史の空白を埋める可能性があります。

また、最先端の大型物理施設とオープンソースの基盤アルゴリズム、そしてシリコンバレー流の懸賞金を組み合わせたプロジェクト設計の巧みさも注目すべき点です。学術界単独では何十年もかかったかもしれない課題を、世界中の若手エンジニアを巻き込むことで1年足らずで突破してみせました。

とはいえ、現時点で読み取れたのは巻物全体の5パーセント程度にすぎません。主催者は今年、解読率を85パーセントまで引き上げる目標を掲げていますが、変形が激しい深部の自動追跡や損傷の激しいインクの識別など、技術的ハードルはまだ残っています。それでも、古代世界の失われた図書館の扉がついに開いたことは間違いありません。

情報源 (1)

  1. [1]
    theguardian.com(新しいタブで開きます)原文theguardian.com

毎日のAIピックアップ