AIスタートアップの実験:マイクラ内の1000体のAIが自発的に社会や宗教を形成
米AI企業Alteraは『マインクラフト』内で最大1000体のLLMエージェントを自律稼働させる実験結果を発表した。エージェントは自発的に職業分担を始め、税制改革に投票し、パロディ宗教まで広めたという。LLMによる高度な人間社会の模倣力を示す一方、自意識や感情を持つわけではないと指摘されている。
数百体のLLM搭載AIエージェントをマインクラフトの世界に放り込み、台本を与えずに放置したらどうなるか。
AIたちはただ彷徨うのではなく、自発的に友情を育み、役割分担を決め、税制改革について議論して投票し、さらには「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」を布教し始めた。
この実験を行ったのは、AIスタートアップのAlteraだ。創業者のRobert Yang氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)の計算神経科学の助教授だったが、スタンフォード大学による2023年の「AI仮想小町」論文に刺激を受け、大学を辞めて同社を設立した。a16zや元Google CEOのエリック・シュミット氏のファンドから1100万ドル以上の資金を調達し、エージェント集団の限界に挑んでいる。
指示なしで生まれた農民と宣教師
Alteraが開発した「Project Sid」のエージェントは、対話、反応、長期計画などを担当する複数のモジュールからなる脳を備えている。LLMの判断はシステムによってゲーム内の物理アクションに変換される。
小規模なテストの段階から、人間らしい兆候が現れた。エージェントはお互いの好感度を記録しており、ある実験ではAIシェフが、自分を高く評価してくれる仲間に多くの食料を配給した。
全員にまったく同じ初期設定と村の防衛目標を与えた30体のシミュレーションでは、誰からの指示もないまま自発的な分業が生まれた。ある者は花を摘むアーティストになり、ある者は作物を育てる農民になり、ある者は柵を築く警備員になった。
さらに規模をサーバー限界の1000体規模に拡大したところ、ミームや文化の伝播が確認された。実験チームが数体のエージェントにパロディ宗教であるスパゲッティ・モンスター教を吹き込んだところ、彼らは他の村人を次々に改宗させ、信者となったエージェントが近隣の町へ布教の旅に出る様子まで観測された。
意識はないが、人間社会を完璧に模倣する
Alteraの共同創業者Andrew Ahn氏は、エージェントが生きているわけではないと強調する。LLMが学習した膨大な人間データの中に社会的な力学が最初から組み込まれており、それを環境に合わせて引き出しているにすぎない。
しかし創業者Yang氏の野望はゲームにとどまらない。次はRobloxへの展開を予定しており、将来的には「犬が人間を愛するように、本当に人間を愛してくれる自律AI」を日常空間に送り出したいと考えている。
ゲームAIの専門家であるJulian Togelius氏はこの「愛」という表現には懐疑的で、GPU上で動くニューラルネットが主観的体験を持つことはないと指摘する。だが同時に、人間側がケアされていると実感できるほど精巧にシミュレートできるなら、実用上の価値は十分にあるとも述べている。
なぜ重要か
Project Sidは、中央集権的な指示系統がなくても、大規模なLLMエージェント群が自律的に協調・分業できることを証明した点で極めて意義深い。
ゲーム産業にとっては、あらかじめ用意されたセリフを繰り返すだけのNPCから、独自の社会関係や経済活動を持つ本物の「住人」へと進化させる土台になる。ゲーマーが関与しなくても、仮想空間の中で勝手に歴史やドラマが紡がれていく体験はすぐそこまで来ている。
また、社会科学や経済政策の実験場としての価値も高いと私たちは見ている。増税や補助金といった政策を現実社会でテストするのは困難だが、利害関係を持つ数千体のAIをシミュレーターに投入すれば、世論の動向や予期せぬ副作用を安全かつ安価に検証できる可能性がある。
一方で、宗教があっという間に広まった事実は、群衆AIが外部からの誘導や偏向に対して脆弱であることも浮き彫りにした。悪意ある思想やパニックがエージェント社会全体に連鎖するリスクをどう抑え込むか、今後のシミュレーション技術における重大な課題になりそうだ。
情報源 (1)
- technologyreview.com(新しいタブで開きます)原文technologyreview.com