ルンド大、AIで「目の進化」を再現:仮想生物がゼロから視覚を獲得
スウェーデンのルンド大学の研究チームが、AIを用いた進化シミュレーションにより、仮想生物が指示なしでゼロから機能的な目を獲得する過程を再現した。分散受容器、カメラ眼、複眼という現実世界の3つの形態がデジタル空間で自然発生し、生物進化の解明や工学設計への応用が期待される。

目が見えない仮想の生物をデジタルの世界に放り込み、餌を探して障害物を避けるよう命じたらどうなるか。
答えは、ゼロから自力で「目」を進化させた、でした。
スウェーデンのルンド大学の研究チームは、AIを用いた人工進化シミュレーションを実施しました。コードで作られたシンプルな仮想世界に、視覚に関する指示を一切与えていない人工生物を放ち、移動、障害物の回避、餌の探索という生存タスクを与えたのです。
コードの世界で起きた視覚のゼロからの進化
最初は何も見えていない生物たちでしたが、世代を重ねるごとにわずかな変異が生まれ、うまく生き残った個体がその特徴を受け継ぎました。現実の自然淘汰と同じプロセスが、コンピュータの中で超高速で再現された格好です。
やがて生物たちは光に反応し始め、光を感じる単純な器官が形成されました。さらに世代が進むと、その器官は情報を処理する原始的な脳のような構造と結びつき、最終的には物体を識別できる機能的な眼へと発達していきました。
研究チームを最も驚かせたのは、自然界に存在する3大視覚システム(散在する光受容体、昆虫のような複眼、人間のようなカメラ眼)のすべてが、このシミュレーションの中で自然発生した点です。
研究を率いたルンド大学のダン=エリック・ニルソン教授は、極めて簡略化された世界にもかかわらず、進化が現実世界でおなじみのルートをなぞるように同じ答えにたどり着いたと語っています。
なぜ重要か
この研究は、ロボット工学や自律型システムの設計アプローチを根本から変える可能性を秘めています。
現在のロボット開発では、人間がカメラやセンサーを選び、画像認識アルゴリズムを組み込むのが一般的です。しかし、仮想環境の中でタスクに応じた感覚器官そのものをAIに自己進化させれば、人間の先入観にとらわれない、過酷な環境に最適化された頑健なシステムを自動生成できるかもしれません。
生物学にとっても強力なツールになります。眼のような軟部組織は化石に残りにくく、進化の途中の過程を検証することは長年の難題でした。シミュレーションを使えば、生命の進化の歴史を早送りで検証したり、自然界がまだ試していない別の進化の可能性を探ったりできます。
私たちが注目すべきだと考えるのは、AIを大規模言語モデルのようなデータ学習機としてではなく、複雑な生命現象を解明する実験場として活用した点です。ただし、今回のシミュレーション環境は現実と比べて極めて単純化されています。ここで生まれた設計が、ノイズと制約に満ちた現実の物理ハードウェアにそのまま通用するかどうかは、今後の検証を見守る必要があります。
情報源 (1)
- interestingengineering.com(新しいタブで開きます)原文interestingengineering.com