毛穴レベルの顔の動きを捉えるAI「SeeMe」、医師より4日早く昏睡からの回復兆候を検知
米ストーニーブルック大学の研究チームがAIツール「SeeMe」を発表。昏睡状態に見える患者の毛穴単位の微小な顔面動作を解析し、医師より約4日早く意識の兆候を検知した。検知率は約90%に達し、早期のリハビリ開始につながると期待されている。

集中治療室で意識を取り戻したものの、医師から「手が握れたら握り返してください」と言われても指一本動かせない状況を想像してみてください。
自分には声が聞こえているのに、周囲からは完全な昏睡状態だと判断されてしまう現象は「潜在意識(covert consciousness)」と呼ばれます。
MRIなどの脳画像検査でもこうした兆候を捉えることはできますが、費用が高く、病床で日常的にモニタリングし続けるのは極めて困難でした。
米ストーニーブルック大学のSima Mofakham氏らの研究チームは、患者の顔の極めて微小な痙攣を追跡するAIツール「SeeMe」を開発しました。
毛穴単位の微動から脳の回復を察知
顔の筋肉は大脳の両半球にわたる広い領域から指令を受けています。そのため、脳機能が回復し始めた最初の兆候は顔面に現れやすいとされています。
SeeMeの特徴は、皮膚の毛穴1つひとつの単位まで捉えるコンピュータービジョンの解像度にあります。医師の肉眼では決して見えないわずかな微動もAIは逃しません。
研究チームは健康なボランティア16人と、外見上は昏睡状態にある重度脳損傷患者37人を対象に検証を行いました。
検査内容は「舌を出して」「目を開けて」「笑って」という3つの指示を患者にかけるだけです。いずれも異なる顔面筋肉の反応を見るためのものです。
その結果、SeeMeは30人の患者で目の反応を捉え、口元の動きに至ってはほぼ全患者で検出に成功しました。医師の診断と比較して検出率は約2倍に達しています。
医師より4〜8日早く現れる兆候
SeeMeは、通常の臨床検査で回復が確認される数日前の段階から微弱な反応を捉えていました。
全体として、開眼の兆候は標準検査より約4日早く、口元の反応は約8日早く検出されました。患者の約90%において、医師より約4日早く潜在意識のサインを捉えています。
例えば交通事故で重体となった高齢男性の場合、入院18日目にSeeMeが口元の微動を検出しましたが、通常の診察で指示に反応できるようになったのは37日目でした。
また別の患者でも19日目に目と口の微小な反応が確認され、その3日後に実際に開眼し、回復へと向かいました。
これらの微動の回数や強さは、退院時および半年後の回復レベルとも高い相関を示しました。ただし研究チームは、AIで反応が出なかったとしても回復の可能性を否定する根拠にしてはならないと強調しています。
なぜ重要か
昏睡状態の患者を抱える家族や現場の医療従事者にとって、回復の見込みがあるのかどうか分からない待機期間は大きな負担となります。
SeeMeの最大の強みは、高価な脳画像診断装置を使わず、一般的なビデオカメラと画像解析アルゴリズムだけで病床監視を実現できる点にあります。
家族にとっては、患者が周囲の音を聞いて反応しようとしている事実を早期に知るだけでも精神的な支えになります。研究チームは将来的に、この微動を用いた「はい・いいえ」の意思疎通システムの実現も目指しています。
脳に電極を埋め込んだり高額な検査を繰り返したりするのではなく、人間が肉眼で観察してきた臨床手法をAIで毛穴レベルまで拡張したアプローチは極めて実用的です。
一方で、アルゴリズムの判定が治療継続の判断に過度な影響を与えるリスクには注意が必要です。今後は筋電位信号などの客観指標と組み合わせることで、判定精度の向上と誤認防止の両立が求められます。
情報源 (1)
- singularityhub.com(新しいタブで開きます)原文singularityhub.com